多くの客で混み合うチェーン系の喫茶店。カウンターで注文するとき、「お席は確保されていますか?」と聞かれることは珍しくない。複数で入店した場合は問題ないだろう。しかし、1人で入った際には、注意が必要だ。
アヤコさん(30代)は先日、新宿駅近くの喫茶店に1人で入店。混み合う店内を見渡し、あらかじめバッグを置いて、席を確保した。冬場ならコートがあるが、この日は長袖1枚。バッグからスマホと財布を取り出して、カウンターに並んだ。
しかし、支払いをすませてコーヒーを受け取り、席に戻ると、自分のバッグをのぞきこむ若い女性に遭遇したそうだ。「あのー、何か御用ですか?」とたずねると、その女性は「いえ、私の荷物かなと思ったんでー」と悪びれる様子もなく、そそくさとその場から離れたそうだ。
「あわててバッグの中身を見ましたが、何も盗られていませんでした。といっても、その日入れていたのはティッシュと手帳だけだったからかもしれないんですけど・・・」と話す。そして「席を確保しろというのは、店側の都合なのだから、もしあのとき盗まれていたら、店側が補償してくれるのか」と心配になったそうだ。
アヤコさんは幸いにして、被害がなかったが、もし何者かに盗まれてしまった場合、店側には補償する義務があるのだろうか? 田村ゆかり弁護士に話をきいた。
●店への損害賠償請求ができる場合、できない場合
「飲食店などが預かったお客さんの荷物や、お客さんが飲食店内に持ち込んだ荷物についての責任は、商法593条~595条に定めがあります。問題となることが多いのは、荷物から離れたり、預けたりすることが多いホテル、ゴルフ場、入浴施設などです」
そう指摘する田村弁護士によれば、ポイントは4つあるという。
(1)店側が預かった荷物がなくなったり壊れたりした場合
「不可抗力(たとえば大地震)でない限り、損害賠償請求ができます(商法594条1項)。喫茶店で店長に荷物を預けることは通常ないでしょうが、ホテルのフロントに荷物を預けたことをイメージしてもらえればと思います」
(2)客が店に持ち込んだだけで、預けなかった荷物
「店員が不注意でなくしたり壊したりした場合は、損害賠償請求ができます(商法594条2項)」
(3)「店内でのお荷物の管理はお客様ご自身でお願いします。盗難、毀損等について当店は一切の責任を負いかねます」と掲示されていた場合
「こんな貼り紙をよく見かけますよね。このように書かれている場合は、原則として、店に損害賠償を請求できません。
請求できるのは、(1)店に荷物を預けた場合と(2)店員が不注意で壊した場合のみです。
(4)預ける際に荷物の種類と価格を明らかにしていなかった場合
「お金などの高価な物については、お客さんがその種類と価額を明らかにして預けない限り、なくなったり壊れたりしても、損害賠償を請求できません(商法595条)。これも喫茶店では通常ありませんので、入浴施設やゴルフ場の貴重品ボックスをイメージしてください。
まとめると、喫茶店では店員が不注意でなくしたり壊したりしない限りは、店内で盗難に遭ってもお店に責任は問えないということです。くれぐれも、高価な物を置きっぱなしにしないように、荷物には注意してください」
田村弁護士はこのように述べていた。