電車内で痴漢被害が後を絶たない。偶然その場に居合わせ、犯人を取り押さえた経験がある人もいるかもしれない。
一方、痴漢はえん罪の危険も繰り返し指摘されており、一般人が加害者とされる人物を逮捕する際のリスクを指摘する声もある。
ツイッターには、痴漢を取り押さえた際、「名誉毀損で警察につきだす」と加害者とされる男性からすごまれたという体験が投稿されていた。
痴漢の現場に遭遇した際、警察ではない一般人が、痴漢の加害者とされる人物を取り押さえる場合、どんな点に注意すべきなのか。刑事手続に詳しい中原潤一弁護士に聞いた。
●「速やかに警察に引き渡す」「必要以上に騒ぎ立てず、淡々と対応を」
「刑事訴訟法213条は、『現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる』と規定しており、214条は私人が現行犯人を逮捕した際の手続きを定めています。
ですから、私人でも加害者とされる人物を逮捕することはできると考えられています。特に痴漢事件では、実際の事例でも、私人が犯人を現行犯逮捕したケースがあります」
中原弁護士はこのように述べる。現行犯逮捕する際、注意すべき点はなんだろうか。
「私人が加害者とされる人物を逮捕した際には、検察官か警察官に引き渡さなければならないと規定されています(214条)。
検察官に直接引き渡すケースはほとんどありませんので、実際には警察官に引き渡すことを考えなければなりません。
ですので、駅などで現行犯逮捕した場合には、駅員さんなどの協力を得て、警察官に引き渡すように行動すればいいでしょう」
相手から、「名誉毀損で訴える」と言われたケースもあるようだ。
「名誉毀損は、民事、刑事両方で問題になりますが、刑事においては、『公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者』は、『その事実の有無にかかわらず』名誉毀損罪にあたるとされています(刑法230条1項)。3年以下の懲役もしくは禁錮、また50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
実際に処罰される可能性は低いと思いますが、痴漢をしたという事実は、人の社会的評価を下げうる事実ですから、名誉毀損に該当するリスクはゼロではないと思います。
ですので、現行犯逮捕の際は、痴漢であることを騒ぎ立てずに、痴漢をしたことを犯人に確認し、速やかに駅員さんに被害を申告し、淡々と警察官からの聴取に応じればよいのではないかと思います」