「借金の返済を延ばしてくれ…その代わり『倍返し』だ!」。こんなふうに大見得を切ってしまったという人から弁護士ドットコムに相談が寄せられています。
相談者は、友人から3万円の借金をしています。期限までに返済する見込みが立たなかったのか、返済期限の延長を友人に頼みました。その際、「倍にして返す」と宣言してしまったそうです。
まるで人気ドラマ「半沢直樹」を彷彿とさせるようなセリフですね。
しかし、セリフは格好良かったものの、実際には「倍返し!」の見通しは立っていません。それどころか、期限までに返済できないなら、相談者の親から取り立てるとまで言われるしまつです。
借金に関して、自分から「倍返し!」を宣言した場合、やはり倍額を返済しないといけないのでしょうか。また、もし親に取り立てがきた場合、親は子どもの借金を肩代わりしないといけないのでしょうか。宍戸博幸弁護士に聞きました。
●「倍返し」宣言は、遅延損害金を支払う旨の申し出
——自分から「倍返し」を宣言したようですが、法的に有効なのでしょうか。
相談者は3万円を借りましたが、これは法律上「金銭消費貸借」と呼ばれるものです。略して「金消(きんしょう)」と呼ぶこともあります。
相談者は、返済期限がきたにもかかわらず返済できず、その際、「倍にして返す」と言ったようですが、これは、法的には返済が遅れたことに対するペナルティ(遅延損害金)を支払うという申し出にあたります。
実際に借りた3万円のほかにさらに3万円を支払うので、この余計に支払う3万円が遅延損害金にあたります。返済が遅れた以上、遅延に対するペナルティである遅延損害金は支払わなければなりません。
——遅延損害金が借りた額と同じというのは高すぎるように思います。
はい、今回のケースで、遅延損害金の額がいきなり3万円になったりはしません。というのも、利息制限法が金銭消費貸借の賠償額(遅延損害金もこれに含まれます)を制限しているからです。
一時期話題になっていた「過払金」という単語を覚えている方も多いのではないでしょうか。過払金問題とは、利息制限法によって定められている利率を超えて貸金業者が利息を取りすぎていたため、取りすぎた利息を返しなさい、という話でした。このように、利息や遅延損害金の額は法律で上限が定められているのです。
遅延損害金の場合、元金が10万円未満であれば「29.2%」、元金が10万円以上100万円未満であれば「26.28%」、元金が100万円以上であれば「21.9%」が上限額と決められています。その上限額を超える遅延損害金を取ってしまった場合、取りすぎた分は返さなければなりません。
——今回のケースで、遅延損害金は具体的にいくら発生するのでしょうか。
借り入れた元金は「3万円」ですので、遅延損害金の上限利率は「29.2%」です。この上限利率は1年あたりの金額ですので、1年間返済が遅れれば遅延損害金は「8760円」ということになります。それよりも早く返済できるのであれば、月数に応じた金額ということになります。
●「倍返し」宣言は損を見る
——よほど返済が遅れない限り、3万円の遅延損害金ということにはならなさそうですね。
「倍にして返す」などと言わなければ、法定金利(2021年1月時点では年3%)を付けて返せばよいとされています。
見栄を張って「多めに返す」といったような発言をしてしまうと、遅延損害金を支払う合意が成立したものとして、本来(法定金利)より多く支払わなければならなくなってしまい、結果的に大きな損をすることになりますので、注意しましょう。
——相談者は、自分の親へ請求がいくことも心配しているようです。
借金の返済がない場合に、お金を貸した側が、借りた側の家族に対して取り立てをするケースがあります。しかし、これは基本的に認められない行為であり、場合によっては恐喝や脅迫として刑事罰に発展するおそれがあります。
借金の返済義務は、お金を借りた「本人だけ」が負うのであって、家族は借金の返済義務を負いません(連帯保証をしてしまった場合は別です)。したがって、親は子どもの借金を肩代わりする必要はないのです。これは子どもが未成年の場合でも同じです。
そして、返済義務を負わない人間に対して返済を迫ることは本来すべきではありません。お金を貸した側は、このような方法を控えたほうがよいでしょう。
お金を借りた方で、家族に取り立てがきた場合、直ちに弁護士に相談して、そのような取り立てをしないよう警告してもらいましょう。