橋本 明広 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
大学を卒業した後、弁護士になる前に会社勤めをしていました。働いているうちに、世のため人のために働く仕事をしたいという気持ちになりました。また、一方で専門的な分野の仕事をしたいという思いもありました。
何となく、自分には法律関係の仕事が向いているような気がしていて、テレビドラマの影響や、会社に勤めていた時に仕事で接した弁護士の姿から、この仕事に対する憧れをもつようになり、自分も弁護士になろうと思いました。
十和田市における司法の現状
現在、十和田市内には法律事務所が4つあります。また、三沢市にも公設事務所があるので、青森地方裁判所十和田支部管内には5つの法律事務所があります。裁判官、検察官は常駐していません。八戸から週に3日、地裁の裁判官がきています。ですので、なかなか裁判の期日が入りづらいところがあります。
事件の種類についてですが、私は、人の悩みは日本全国それほど大きくは変わらない気がします。この地域は平均的な所得が高くないこともあって、長年、事件全体の中で多重債務の問題が大きな比率を占めてきました。ただ、管内に複数の弁護士がいて、これまでかなりの事件を処理してきたこともあり、この地域における多重債務問題は大分落ち着いてきたように思います。
今は、比較的、遺産関係や離婚事件など家庭の問題と土地や建物など不動産の問題が多いように感じています。ただ、先述のとおり、ここで特有の問題が起きているというよりも、日本中で起きている問題がここでも起きているのだと思います。
司法過疎の問題について
私だけでなく、この問題の重要性は広く弁護士会で共有されています。今年の東北弁護士会連合会の定期大会でも、司法過疎の問題は弁護士が地域に常駐するだけで解決できる問題ではない、裁判官・検察官の常駐の問題と合わせて解決しなければならない、ということで、司法過疎の問題について引き続き取り組んでいくべきである、という決議をしています。
また、十和田でも、シンポジウムのような形で司法過疎の問題をとりあげ、裁判官・検察官の常駐に向けた取り組みを積極的にしていこうという動きがあります。このような取り組みに対して、地元からも積極的に声を発していかなければならないと思っています。
仕事の中で嬉しかったこと
相談や事件を終えて、相談者や依頼者が安心して帰っていくときです。どんな相談や事件であっても、深刻な顔をしていた相談者、依頼者の方が「肩の荷が下りました」と言って安心して帰っていく、少しでも心の重荷が取れたと思っていただける、こうしたことの一つ一つが嬉しいことです。
弁護士になって大変だと感じること
本人の気持ちを尊重することと専門家の立場から責任をもって意見を述べることの、バランスをとることが大変ですね。
私は、日々の中の業務の中で、依頼者にとって望ましい解決策を依頼者、第三者双方の立場で考えることを意識しています。その前提として、事件を解決するとはどういうことかということを考えます。こうしたことは特に地方に行くほど考えると思います。
例えばお金の貸し借りの問題ですと、お金を取り立てるために裁判をして最終的には強制執行で満額取り返すことは一つの解決だと思います。それが法律的な解決なのですが、果たして本当にそれがいい解決なのかと思うときがあります。
地方では、都市部に比べて人間関係が密なので、事件が終わっても当事者同士の関係が続くことが多々あります。例えば、離婚で子がいる場合はそれぞれ親としての関係が続きます。土地の境界争いでは、事件が終わってもお隣さんとしての関係が続きます。そうすると、こちらの言い分を100%通すことが、事件の解決という観点から本当にいいことなのかと考えさせられます。
依頼者自身は感情的になっていて、その場で自分の主張を通すことに必死になっていても、弁護士が第三者的立場から、このようなことも意識してアドバイスした方がいい場面があるように思います。依頼者の気持ちは尊重しなければなりませんが、一方で専門家・第三者として本当にいい解決方法とはなんだろうと考えることが我々の仕事だと思っています。
関心のある分野
不動産関係です。以前司法書士の仕事をしていたこともあり、不動産は元々身近に感じていました。不動産は財産の中でも特に重要なもので、財産法全体の中でも基本となるものですし、公示制度が確立しています。登記簿を眺めていると事件の歴史が目に浮かびやすく、そのような意味で関心のある分野です。
今後の弁護士業界の動向
法律事務のサービス業化が進むと思います。過払い金の問題が弁護士業界に与えたインパクトが大きすぎて、この問題に特有のやり方をもって弁護士のサービスモデルを唱える方もいらっしゃるのですが、弁護士業務全体の中で過払い金の事件はかなり特殊な部類だと思います。
法改正によりこの問題も沈静化に向かいつつあるように思いますので、これだけをもって今後弁護士業務がサービス業化するとは思いません。ただ、そうは言っても弁護士の数が増えていますので、競争が激化し、個々の法律事務所が事務所のサービスをアピールする傾向は強まると思います。現に青森でも、テレビやラジオで法律事務所のコマーシャルが流れ、毎週のように借金の出張相談会のチラシが家に届いています。
一方で、これまで以上に弁護士の公益的使命を自覚し実践する動きも活発化すると思います。私が親交のある弁護士は皆、熱心に公益的な活動をしていますし、顔を合わせれば弁護士の使命について語り合っています。若い弁護士でも先輩の先生方でもそうした方は数多くいらっしゃいます。
グローバリズムが進み競争が激化しつつある現代の社会において、一方で、近年、社会的企業と呼ばれる組織の活動も注目を集めています。弁護士の業務をビジネスモデルで捉えるとしても、元々、弁護士の活動は社会的な活動であったと思います。弁護士はこれまでも様々な分野で、採算にとらわれることなく社会に貢献する活動をしてきたし、今後も弁護士の使命を自覚して実践していく弁護士は残っていくと思います。
例えば、震災の後、被災地の弁護士は、被災者支援、現地からの情報発信、立法提言などで大活躍されましたし、今も地道に活動を続けておられます。これに応えて全国から多くの弁護士が被災地に駆けつけ、労を厭わず被災者に対する支援活動を精力的に行っています。日弁連や各地の弁護士会もこれを全面的にバックアップしてきました。
弁護士の本来の仕事は個々の事件処理を通じた人権擁護ですが、今回の震災を機に、弁護士が社会において果たすべき新たな役割が示された、弁護士の公益的使命が再確認されたと思います。
(2012年9月インタビュー実施)