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「スルガ銀、トカゲのしっぽ切り許さない」第三者委、中村直人弁護士のスタンス
第三者委員会委員長の中村直人弁護士

「スルガ銀、トカゲのしっぽ切り許さない」第三者委、中村直人弁護士のスタンス

女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズが経営破綻した問題で、物件所有者(オーナー)に対する融資に際し、スルガ銀行の複数の行員が審査書類の改ざんを認識していたと指摘されている。金融庁が立入検査に乗り出し、捜査当局へも告発状が提出されるなか、スルガ銀行は第三者委員会に真相解明を委ねることを決めた。

弁護士ドットコムニュースでは6月4日、第三者委員会の委員長に選ばれた中村直人弁護士にインタビューを行った。(概要は以下のとおり)

●8月末に最終的な結果公表

ーー5月15日に第三者委員会が立ち上がり、約20日間が経ちました。この間どのような調査が進みましたか

「スルガ銀行が、第三者委員会の調査を担当する専属の行員を複数配置していて、その担当者に対して、融資審査や会議の議事録など、紙媒体の資料や銀行にあるデータを次々とリクエストをしています。それらをもとに、どういうところに問題がありうるか、論点を探す作業を進めているところです。論点は30から40くらいにのぼるでしょう」

ーー関係者のヒアリングはいつ始めるのでしょうか

「論点を網羅的に探して、ネタを集めたあとに、関係者のインタビューに着手します。7月を予定しています。いま、手ぶらで話しにいったところでこちらの認識が不足していてかわされたら意味がありません。最終的な結果報告は8月末にはするつもりです」

ーー膨大な資料を読み込み、調査にあたるわけですが、タイトなスケジュール感ですね

「あんまり時間が経ってしまうと事件が何となく忘れられてしまう懸念があります。8月末までというのは、しっかり守りたいと思っています」

●スルガ銀行のガバナンスに焦点

ーー関係者が既に退職していて話を聞くことが難しい場合もありそうです

「必要な方々は、ただ辞めているからといって調査対象から外すことはしません。これまでに行われている聴取結果も必要に応じて参考にすることもあると思います」

ーー調査対象者は、問題があったとされる横浜東口などの支店や本店の融資担当、融資担当役員になるのでしょうか

「枢要な支店の関係者はもちろん、営業、(融資)審査のライン、そして経営層になります。対象者は100人には満たなそうですが、数十人規模です」

ーー5月15日に発表された危機管理委員会による調査結果及びスルガ銀行の認識では、「改ざん」を複数の行員が認識していたと明記されています。現状、どう評価していますか

「問題点はたくさん浮かんでいます。第三者委員会としては、支店のひとつひとつの融資を細かくみていくのも大事だと思っていますが、そこで調査が終わってしまっては結局、『トカゲの尻尾切り』になってしまうと考えています。

なぜ、こうした問題ある融資が急増したのか、営業とか審査のラインで、シェアハウス投資に関する商品の真面目な検討をしなかったのか、経営層がなぜ抜本的な改善をしなかったのかなど、スルガ銀行のガバナンスそのものをみていくつもりです。

また、報道などで出ているような問題がありそうなことは、できるだけ網羅していきたいと考えています。シェアハウス投資だけでなく、いわゆるアパートローンなど、資産形成ローンと呼ばれる範囲のものが対象となります」

●スルガ銀行に対し、ドラフトは一切見せない

ーースルガ銀行から第三者委員会を引き受けてほしいと依頼があったということですが、どのようなやりとりがあったのでしょうか

「5月14日に社長の米山さんが来られて、『第三者委員会をお願いしたい』というお話がありました。私からは、『これだけ世間の耳目を集めている問題で、厳正中立にやらないと信頼回復しないし意味がない。日弁連方式でよろしいのか』と言いました。米山さんはそのつもりでいたんでしょう。『それでもちろん構わない』という言葉がありました」

ーー日弁連方式で行うということは、どういうことでしょうか

「日弁連方式は、独立性が高い方式で、例えば作成する報告書のドラフトも事前に会社側に見せません。よくある第三者委員会のパターンとしては、事前にドラフトを会社側に見せて、改善策と第三者委員会による報告書の公表が同じタイミングになるということがありますが、我々はそうしたことはしません」

ーーではスルガ銀行は一切、公表までドラフトを見ることができないのですね

「はい。委員会で報告書の最終案が固まったら、日を決めて公開しますが、会社に対しても同時になります。事前にドラフトは一切見せません」

ーー現状ではどのような報告書になると想定していますか

「時系列を整理して事実を認定して、どこに問題があったのか我々の見解を記します。役員や従業員に法令違反はあったのか。法令違反とまでは言えないけど、不当だったとか。さらにこういうことをしていればよかった、というのを示したいと思っています」

●経営陣はブレーキ役を担えなかったのか

ーー本件は銀行業界にとってどのような教訓になりそうですか

「スルガ銀行は、地銀の中でも利益率がダントツに高くて、アグレッシブな経営戦略を取ってきたと言われます。アグレッシブだからダメだということではなく、それはどこかで大きなリスクを取っているということです。つまりアクセルと同時にブレーキをしっかり踏むような措置を、経営陣は取らなきゃいけなかったのかなと感じています。

審査と営業のバランスでみても、審査よりも営業の方が強いわけです。そのバランスを誰が取ってきたのか。新しい商品を出すときに、そのリスクをどう分析してきたのか。途中で誰からハッと問題に気づきそうなものです。特定支店で融資実績がボコッと増えると、ちょっと待てよと疑問を抱くのが自然でしょう」

ーー金融庁や捜査当局、被害者を支える弁護団など既に動きがいくつもあります。何か情報共有を図る考えはありますか

「当局はそれぞれすべきことをしていると思うので、当局の動きをにらんでこちらの発表を遅らせるとかはありません。ただ、可能な限り、いろんな情報提供を、ご協力をお願いしようと思っています。外部の人でも事案の関係者なら接触していくつもりです」

【取材協力弁護士】中村 直人(なかむら・なおと)弁護士中村・角田・松本法律事務所パートナー。企業関連の訴訟や会社法、金融商品取引法などに関わる分野を得意とする。

事務所名:中村・角田・松本法律事務所事務所

URL:http://www.ntmlo.com/index.html

(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama

(弁護士ドットコムニュース)

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