川村 和久 弁護士
この段階で裁判を起こしても、全く迂遠で、時間が間に合わず、何の解決にもなりません。手元の文献を紐解いても、このような「非典型事例」にまで言及してくれているような配慮の行き届いた?本なども容易に見当たりません。 そこで、色々思案した結果、ともかく「動産引渡し断行の仮処分」の手続を申立ててみることにしました。仮処分は、本来本訴の前に暫定的に権利を保全する手続ですが、この類型(断行の仮処分)では、本訴を待たずに実質的に権利を実現してしまうものであり、このような事案で本来の威力を発揮してくれるはずです。一般に、典型事例として「建物明渡断行の仮処分」などが良く知られています。 結果としては、この手続を利用することで迅速に書類を取り戻すことができ、これらを新しい税理士さんに引き継いで、税務申告を無事終えることができ、非常に安堵しました。 具体的な経過は次のとおり。裁判所に「動産引渡断行仮処分命令の申立て」を行う。申立ての趣旨は、「債務者は債権者に対し、別紙物件目録記載の書類を仮に引き渡せ」というものです。別紙物件目録には、「1 債権者が債務者に対して引き渡した平成XX年4月1日から平成XX年3月31日までの期間の事業年度にかかる債権者の経理資料一切(請求書一式、領収書一式、クレジットカード明細一式など)2 債務者の保管する上記期間の事業年度にかかる債権者の総勘定元帳」と記載。 被保全権利は、「所有権に基づく物権的返還請求権」、保全の必要性は、「後日本案訴訟で勝訴判決を得ても、債務者の現在の状態からすれば、上記書類がその時点で紛失してしまっていたり、債務者の悪意により破棄されたりする可能性もあるし、なによりも、債権者らの今期の決算書類の作成及び税務申告には上記書類が必要であるところ、これを現在の税理士に委託して適正に処理するためには遅くとも5月半ばくらいにはこれらの書類を取り戻さなければ、5月末日限りの税務申告に間に合わず、銀行融資を受けるにも支障を来たすほか、債権者らの対外的な信用に極めて深刻な悪影響が生じるおそれが高い。」と主張しました。 裁判官面接がありましたが、債務者審尋もなく、担保も低額の5万円で、ほぼ申立てどおりに発令を得ました。 執行官に保全執行の申立てを行い、執行当日、執行官、立会い業者とともに現地(事務所兼自宅)に赴きました。債務者は不在でしたが、父親が応対し、その案内で2階のの仕事部屋に赴くと、机や床、パソコンのキーボードの上などあちこちに書類が積み上げられたり、散乱している状況。クライアントごと、書類の種類ごと等に全く整理されてなどおらず、これでは、細かな数字を扱い、正確な作業を要する税務書類などきちんと作成できるわけがないと思わざるを得ないような状態でした。 あちこちに散乱し、あるいは山積みとなっている書類の海の中から、段ボール箱2箱分くらいの書類を、汗だくになって探し出して執行(なお、その場で全く整理できてない状態でとりあえず箱に入れていった状況)。一つ一つの書類を特定するのは無理なので、目録には、すべて「請求書一式」等々と記載。保全した書類については、決定では「執行官保管」との決定であるが、「保管替」により債権者代表者が保管することに(要するにこちらに渡してくれたのです)。 しかしながら、上記の作業によっても明らかに完全には資料を引き上げられてはおらず、翌日、父親から話を聞いた債務者から私宛電話連絡が入ったため、その電話にて任意に交渉し、残りの資料の引き渡しを受け、結果的にほぼ書類は取り戻すことに成功しました。
元顧問税理士に預けていた書類の取戻し-動産引渡断行仮処分を用いた一事例の
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