『元ボノボ志望』のハマッ子弁護士。離婚事件に注力、「依頼者の表情が変わる」瞬間に立ち会う喜び
就職氷河期で弁護士に。もともとは「ボノボ志望」だった?
ーー弁護士を目指したきっかけを教えてください。
“目指した理由”っていうのは実はとくになくて。というのも私、就職氷河期が一番ひどい時期に大学を卒業した世代なんです。当時は私立文系卒の女子なんてどこも行き場がなくて、資格を取らないと食べていけなかったんですよ。
ーー先生は上智大学のご出身だそうですが、高学歴でも就職が厳しかったんですね。
目標を持って上智に入った人は、1年時から色んな活動をしていました。今で言うと NPOや、国連関係の活動でしょうか。そういうのをいっぱいやっている人はいたんですよ。でも、私はとくにそういう感じではなくて、漫然と「どっかに就職して、そこそこ食っていける仕事について…」と思っていました。結果、どうにもそうはいかなそうだったっていう(笑)。
あと、大学の講義がどれも面白すぎて、「就活のために先輩と仲良くしておこう」みたいな、勉強以外の活動を全然していなかったのもあります。要するに、コネがなかったんですよね。
ーーでは、何年生くらいのときに弁護士を意識し始めたのでしょうか?
「これは資格を取らないと死ぬな」と本格的に思い始めたのは3年生の終わり頃のことです。それまでチャラチャラしていたはずの周りの人たちが、いきなりリクルートスーツを着て真っ黒な髪になったのを見て、「これはやべえな…」って(笑)。
ーー資格を必要とする仕事は他にもあると思いますが、その中で弁護士を選んだ理由は?
法学部入ってたからじゃないですかね。私ね、実は大学2年生の3学期頭までは、京都大学の大学院に進学して、『サル学』を研究したかったんです。ボノボに興味があって。
そもそも中学3年生頃に、『ER緊急救命室』という海外ドラマを見て、「わ、医者になろう」と思ったんですね。でも、数学が苦手だったので、医者は無理だなと諦めたんです。で、その流れで「医者よりは研究者?」と思って。そうするうちに、動物番組を見て「これは面白いな」と思うようになりました。
なぜボノボかと言うと、チンパンジーよりは人間臭い感じがして…私ね、チンパンジーはあんまり好きじゃないんです。むしろ怖くて。でも、ボノボだったら隣人感があるんですよ。
ーー弁護士を志した経緯も面白いですけど、司法試験に合格されるっていうのもすごいですよね。
運が良かったんですよ。勉強量で言えば、もっとしている人はいっぱいいたと思いますね。私は旧試験だったんですが、短答式試験、論文式試験、口述試験がありました。でも、勉強さぼり魔だったので短答に落ちる気満々でいたら通過して、急に論文になって「ひえー」ってなっていたら、大学の講義やゼミの中で出てきた問題がちょうど出題されたんです。大学に真面目に行ってたおかげで通ったんですね。
ーーそれは「運が良かった」というより「日頃の行ないが良かった」ということじゃないですか?
どうなんすかね? (一瞬考えたのち)……いやー、でもあれは運ですよ。司法試験の出題範囲は膨大ですからね。
ハマッ子弁護士が「離婚事件に注力」する理由
ーー弁護士としては横浜に事務所を構えられていらっしゃいますが、どういった経緯で?
自分が住んでるんで。10歳くらいのときに移ってきて、そこから市内転々としながらも、ずっと横浜です。司法修習だけは千葉でした。それくらいの話で、とくにそれ以上の理由はないんです(笑)。
ーーそれくらいの話と言いつつ、完全にハマッ子ですね。
そうなるみたいですね。
ーー弁護士として注力されている分野を教えていだたけますか?
とくに注力しているのは離婚事件、相続事件かなと思います。あとは不動産関係の交渉をよく扱っていますね。
注力しているのは離婚事件です。やっぱり女性で弁護士やってると女性からの相談が多いんですけど、やり甲斐を感じています。実際に話を聞いて解決まで持っていくのはある意味、人生のプランの一端を担うことですし、離婚が成立して新しい門出を作ってあげられるのはうれしいです。
あとは、依頼者の表情・顔色が変わるのを見るのも好きです。家庭内でずっとモラハラやDVの被害を受けてきた人って、最初はみんな苦しい顔をしているんですけど、調停の2回目ぐらいになるとパッと顔が明るくなるんです。
ーーどうしてそこまで表情が変わるんでしょう?
「自分が何と向き合って、こんなにも辛い思いをしてるのか」ということが、それまでいまいち見えてなかったんですよね。
よくあるケースで、たとえばモラハラ夫のもとで20年我慢してきたような女性だと、相談に来られたときは「夫がああ言ってるのに私がこんなことを言っていいのか?」「夫が『離婚はしない』って言ってるのに、自分がそれに逆らっていいのだろうか? 正当性はあるのだろうか?』」みたいなテンションなんです。
それに対して、「いやいや、向こうの主張はこういう点でおかしいでしょ?」って話をするうちに、「あ、たいしたことないじゃん」「私がこれまでこんなことにビビってたんだ」ってなっていく。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」じゃないですけど、恐れの理由を冷静に見られるようになるんです。
ーーどんな風に、相談者の恐れの理由を探っていくのでしょうか?
まず最初に、その人の目から見て、どういう不満があるのかを話してもらいます。「なにが起こって、辛かったのか」を聞き出していくうちに、だんだん『感情の記憶』から『事実の記憶』を話すほうに頭が切り替わっていく。
ーー先生は良い意味で肩の力が抜けていますよね。離婚を人生の一大事と捉える人も多いと思うので、そういった雰囲気は依頼者にとっても気が楽になるかなと。
眉間にシワ寄せたって状況は良くならないですからね。だから、何が見えてるのかを先に知りたいんですよ。難しい話とかはべつにどうでもいいんです。
モラハラ夫に疲れた女性たちの、表情が変わる瞬間に立ち会う喜び
ーー仕事で心がけられていることは?
家事事件、とくに離婚事件の場合は『この先がある話』だからこそ、「どういう生活をしたいですか?」ということはいつも聞いています。
たとえば、もし「離婚しない」という決断に至ったとしても、「相手とは相当ギクシャクするよ」「元の状態には絶対戻れないよ」「そうなると、5年もしたらまた向こうは離婚だって言い出すかもしれないよ」みたいな話になることも当然あるわけですよ。
だからこそ、お金の話は必ずします。「その時までには、自分でちゃんと稼いでいけるようになってないとまずいよ」って…そこまでのプランを依頼者と話して、一緒に立てていくんです。
ーー弁護士として活動されてきた中で、印象的だったことを教えていただけますか?
新人時代、夫から10年以上暴力を振るわれていた女性の事件を担当したことがあったんですが、あれは一番強烈な事件でしたね。「ついに子供にまで手上げたので離婚する決意をした」っていう流れだったんですけど、別居して代理人からの通知がきた途端、夫の態度が急変して…バラの花束を抱えて、女性が帰っていた実家までやって来たり、切々と愛をつづった手紙を送るようになったんです。
妻をぶん殴っていた男が、出て行かれた途端にロミオになっちゃうのはそれほど珍しくないんですけど、印象的だったのは裁判でのこと。相手が弁護士をつけなかった結果、尋問の際に代理人がおらず、同じ空間に夫と妻と居合わせることになったんです。その後、尋問が終わって次回期日をいつにしようかって話していたら、夫が妻のほうに物理的に詰め寄ってきて…「やり直したい」みたいなことを言おうとしていたようですが、こっちは体を張って間に立って「ダメダメ!」って(笑)。
ーードラマみたいです。本当にあるんですね、そういうこと。
そのときは、家裁で一番ガタイのいい書記官が法廷にいたので、引き離してもらいました。裁判官が入退廷のときに使ってる裏の道を通して外に出て、普段と違うルートで駅まで行って帰りましたね。
ーー夫のそういう姿を見ると、依頼者も感じることがあったでしょうね。
一番最初に相談に来たとき、奥さんの顔が本当に土気色だったんですよね。それが別居して2、3ヶ月も経つと、肌のツヤも良くなり、笑顔が出るようになっていました。
顔が変わるって意味ではね、債務整理の人も同じなんです。毎月どれだけ稼いでも全部借金の返済にいっちゃうから、食べる物も切り詰めて、お金の心配ばっかりして…という人が破産することに決めて、もう請求書も届かないってなった途端に顔が変わるんです。
ーー離婚だったり、債務整理であったりっていう人の人生に色濃く関わるっていうところですもんね。
なので、この仕事は楽しいです…あんまり稼げないけど(笑)。
趣味はロードバイク。フェスで泥だらけになったことも
――休日の過ごし方や趣味は?
コロナってからは本当になんにもしてないです。それ以前は、結構アクティブに自転車に乗って色んなところに行っていました。海外のフェスに行って、泥の中で寝て「ワーッ」てやってたりもしていたんですけどね。
ーー「海外行って泥の中でワーッ」って何ですか? そんなフェスがあるんですか?
ドイツのハンブルクから、北100キロぐらい行ったところにヴァッケンという村があって、そこで7月の終わりから8月頭にかけて「ヴァッケン・オープン・エア」というヘヴィメタルのフェスがあるんです。
ここがね、もともと牧草地でろくに何もないような村で。夏でも毎日雨が降ってドロドロになったり、冬は冬で凍りつくような結構過酷なところなんですけど、そこにみんなでテント張ってフェスを楽しむんです。あれを経験すると、「こういうところで鍛えられたゲルマン人に、夏は日が当たって1日ポカポカしてるローマ人が勝てるわけない」なって思うようになりますね。
ーー独特な感想ですね…あとはロードバイクも趣味とのことで。
友達に誘われてロードバイクを買ったのがきっかけです。「むちゃくちゃ速えな!」「これはいいぞ!」ってなって調子に乗って走ってました。一昨年まではボッテキア(イタリアのメーカー)に乗っていたんですけど盗まれちゃって、今はもうちょっと柔らかめの国産のものに乗っています。コロナ前は、土日に横須賀のほうに片道30キロぐらい走って、海鮮丼を食べに行ったりとかしていました。
「AIでは替えがきかない」家事事件に今後も取り組む
ーー弁護士としての今後の展望を教えていただけますか?
弁護士事務所も統廃合・大型化が進んでいますし、周囲の弁護士はフィンテックなど新しいことに手を出しています。それに対して「すごいな」って思いはしますけど、でも、同じことをしたいとは思いません。
こっちは家事事件を細々とやっている感じですからね。
ーーたしかに新しい分野に比べると家事事件は地味かもしれませんが、そこに関わる弁護士は絶対に必要ですよね。
こればっかりはね、AIでは替えがきかないと思いますよ。
ーー最後に法律トラブルを抱えて悩んでいる方へ、一言メッセージをお願いします。
「『自称詳しい友達』よりも先に、弁護士のところに行ってください」ってことぐらいですかね。口を出してきたがる人いるじゃないですか。「こうするといいわよ!」って(笑)。 あとは、最近は厄介なことに、スマホで『離婚』と検索すると、変な広告から非弁業者に誘導されるケースがすごく多くて。いきなり弁護士事務所に問い合わせしてほしいんです。
弁護士をしていると、「離婚はしたくないけど、うまい関係を築き続けたい」という相談は実際、結構あります。弁護士って壊れかけの家庭を何十件も見ているので、結構いいアドバイスができるんですよ。だから、本格的に離婚するしないはさておき、『愚痴を言いに行くところ』として、弁護士という選択肢があってもいいんじゃないかなと思ってます。