障害者とスポーツの法律問題に向き合うことがライフワーク ~声を上げにくい弱者の代弁者となる~
「声が小さい人の味方になりたい」
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
自分自身もリーダーシップがあるわけではなく、集団の中で上手に自己主張ができるタイプでは無かったので、少数者や自己の意見、権利を主張することが苦手な人の味方になりたいと思っていました。ただ、大学時代はテニスばかりに明け暮れていたため、いざ就職活動をする時期になってもなかなかやりたい仕事が思い当たりませんでした、そのような中、「家栽の人」という漫画とドラマに出会いました。主人公の桑田判事はまさに人間味があふれ、目に見えない心情に寄り添う存在でした。もともと、多様な人たちと接することが好きでしたので、この作品に感銘を受け、声の小さい人の代弁者になるべく、弁護士を志しました。
ーーどんな学生生活でしたか?
大学時代は、授業もそこそこに、朝から晩までテニスの練習をしたり、テニスコーチのアルバイトもしていました。弁護士になった今も、法曹テニスに参加して、なるべく時間を作り、同業や裁判官、検察官のテニス仲間とコートで打ち合っています。
弁護士過疎地域で見つけた「故郷」
ーー現在の事務所に所属するまでの経緯を教えてください。
最初は山本安志法律事務所という、幅広い案件を扱う横浜の町医者的な事務所で4年半修行しました。
独立を考え始めた時期に、ちょうど、日弁連のひまわり基金法律事務所のプロジェクト(編注:弁護士過疎解消のために日本弁護士連合会が開設を支援する法律事務所)が始まっていました。
弁護士が少ない弁護士過疎地域では、大都市部にも増して、司法へのアクセス障害があり、身近に相談できる専門家がいないため、地元の有力者や声の大きい人の意見が通りやすく、声の小さい人は泣き寝入りを余儀なくされる実態があると聞いていました。そこで、そのような地域、そこに住む市民の方々に、私の町医者としての4年半の経験が役に立つのではないかと思い、そのまま独立するのでは無く、当時、弁護士を募集していた米沢ひまわり基金法律事務所の初代所長に応募したのです。
米沢とは運命の出会いであり、今では私の中の故郷のような場所です。いざ移住して中に入ると、住民は優しく、私のことを快く受け入れてくれましたし、プライベートでの付き合いも大変充実していました。衣食住のみならず、人、町、自然、すべてが素晴らしく、仕事も大変やりがいがありました。米沢は、上杉の城下町として、かつては山形県第2の都市であったこともある、県南置賜地方の中核都市です。にもかかわらず、当時は、山形地方裁判所米沢支部管内人口約24万人に対し、私を含めて弁護士が3人しかいませんでした。そのため、3年7か月の在任期間中は、地域の市民のみならず、地元企業の方からも、ありとあらゆる分野の相談が寄せられ、私自身も多くの経験をさせていただきました。
今は横浜に移転してしまいましたが、、いつか米沢に戻り、「この町のため、この町に生きる。」という言葉を体現したいとの思いがあります。
ーー注力されている分野について教えてください。
このように広く市民の間や地域社会の中で生起する様々な問題を取り扱ってきましたので、大規模企業法務やM&A、特許などの特殊な専門分野を除き、広く対応が可能です。司法過疎の問題に取り組んできた経験から、ご相談者の方がたらい回しにならないよう、共感ができるご相談依頼についてはできる限り断らないようにしています。
ただ、その中でも、特に他の事務所にはない専門性を持って注力している分野は、障害のある方に対する法的支援とスポーツに関する法律問題です。
障害のある方に対する法的支援は、まさに立場の弱い声を上げられない方の代弁者になることですので、神奈川県弁護士会や日本弁護士連合会の関連委員会、障害と人権全国弁護士ネットワーク、障害年金研究会、成年後見法学会、障害法学会などに所属して、私のライフワークとして取り組んでいます。近年は、障害者虐待に関するご相談や講演依頼も多くいただいております。
スポーツ法の分野については、学生時代にテニスをしていたように、私は、元来、体を動かすことが好きで、弁護士になってからも、テニスだけで無く、ダイビングをしたり、登山、スノーボードを始めるなど、日常的にスポーツをしていることから、専門的に取り組みたいと考えるようになりました。そこで、神奈川県弁護士会にスポーツ法研究会を立ち上げ、事務局長幹事として活動してきたほか、日本弁護士連合会の関連部会やスポーツ法学会等にも所属しています。一度はまるととことん突き詰めたくなるタイプで、スノーボードについては、日本スノーボード協会の公認インストラクターの資格や、いわゆる検定1級の上位資格である、Tech.1の資格を持っています。また、登山については、山岳会に所属して、沢登りやバックカントリースノーボードなどの、いわゆるバリエーション登山に行くことも多いです。その関係で、最近は、スキー、スノーボード事故に関する相談依頼が多く、やりがいを持って取り組んでいます。
ーースキー場での事故の対応には、どんな特徴がありますか?
スキー、スノーボード事故は、警察による実況見分等により証拠の保全が行われる交通事故となり、一般的に、きちんとした事故状況の確認や記録がなされないため、事故態様を裏付ける証拠に乏しいことがほとんどです。スキー場のパトロールによる事故報告書等が作成されることはありますが、大まかな事故態様や事故発生斜面地点、当時のゲレンデ状況、視界や天候などについての情報の記載はあるものの、具体的な事故衝突態様の検証はされず、当事者や関係者からの事情聴取も十分になされません。そのため、多くの事案で、事故態様そのものが、責任の所在や過失割合との関係で極めて鮮烈に争われます。
にもかかわらず、実際の損害賠償の交渉や裁判では、裁判官だけで無く、代理人弁護士さえも、関係当事者の誰1人、スキー場は遠いからということなのか、事故現場にすら行かない、実際の状況を見ない、事故態様の検証見分をしようとしません。しかし、事実認定の対象は、大自然の中での非日常空間で起こった事故なのです。証拠も豊富で、日常的に見聞きする交通事故ではありません。生の事故発生現場で検証見分をし、斜面の状況、雪の状態、周囲の情景、風の音…等など、現場の状況を実際に体感せずして何が分かるのでしょうか。現実の裁判でも、事故現場のゲレンデの地形の状況(例えば、コース幅、見え方、雪の付き方、ゲレンデ内の岩、木、柱、崖…)を知っていれば、あり得ない事故状況が平然と主張され、あわや認定されてしまうということが起こっています。
また、多くの裁判官、代理人弁護士は、学生時代にレジャーでスキーをやったことはあっても、それ以上に、専門的に、あるいは、生涯スポーツとして、スキーを身近に楽しんでいるわけではありません。スノーボードとなると尚更です。そうすると、なんとなく、高速で滑って危険そうだとか、足が固定されているのは怖そうだとか、背中側が見えないなんて危ない、ましてや跳んだりはねたりなんて自業自得では無いかなどというイメージが先行してしまったり、少なくとも、スキーやスノーボードの滑走特性に基づいた事故態様の分析がなされないことがほとんどです。そのため、このような理由からも、スキー、スノーボードを知る者からすれば、あり得ない事故態様が主張され、判決において認定されかねない状況にあります。
すなわち、現実のスキー、スノーボード事故に関する裁判では、正にフィクションであるといっても過言でない状況が起こっているのです。これが、多数のスキー、 スノーボード事故裁判を経験してきた中で、一番の問題だと感じています。
ーー先生はどのように弁護活動をされていますか?
まず、私の場合は、例年、11月から6月の月山まで、様々なスキー場を訪れ、特に関東圏からアクセスの良いスキー場には、ほとんど行ったことがありますので、スキー、スノーボード事故に関しては、ご相談者様のお話を聞いただけで、事故現場のゲレンデの状況や事故時の雪の付き方、斜面の状況、ゲレンデの混み具合など、事故地点周囲の情景が、リアルな映像をもって、頭の中に広がってくることも多いです。
また、私は、スキー、スノーボード事故裁判のご依頼を受けた場合は、別途費用はいただいてしまうことにはなりますが、原則として、事故現場に行くようにしています。大自然の中で発生するスキー、スノーボード事故は、その年によっても、月によっても、天候や気温の推移によっても、ゲレンデ状況が刻一刻と変化しますので、できる限り、発生時期に合わせて、その年々の雪降り、天候の状況なども見て、同じようなコンディションを狙っていきたいと思っていますが、なかなか難しいのが悩みの種です。
この点、私自身は、一般的な滑走であれば、大概のコンディション、斜面で、思いどおりに滑走をコントロールすることができますので、自分で双方が主張する事故態様をそれぞれ再現し、検証することができることも強みだと思っています。こうして作成して提出した事故報告書や再現動画が決め手となって、実際の裁判が有利に進むことも多いです。
ーー弁護士として活動してきた中で印象的だったエピソードはありますか?
弁護士として様々な相談依頼に対応してきましたが、どれも印象に残っています。事件に軽重は無く、判例集に登載された案件も、そうでない案件についても、一つ一つ丁寧に親身に取り組むことを大事にしてきました。
障害のある方の相談依頼に関しては、障害者自立支援法違憲訴訟などの大きな集団訴訟も何件か経験していますが、そうした世間の耳目を集める案件だけで無く、今、私が力を入れていることは、中軽度の障害のある方の地域生活や日常生活の中で発生する生きづらさを法律家の観点から支援することです。例えば、障害のあるご本人の成年後見人や保佐人として、ちょっとしたことでも相談に乗れるよう、障害故に生きづらさを抱え、法的課題に直面することも多いご本人達が困ることが無いよう、そして困った場合にすぐに対処し、被害を拡大させないよう、身近で見守る活動に取り組んでいます。おそらく、成年後見事件については、県下、有数の取り扱い実績がありますが、私のように、ご本人達と気軽にLINEのやりとりをしたり、頻繁に事務所に来てもらったり、自宅に行ったり、食事をしたり、ハイキングをしたり等、日常的にコミュニケーション取っている弁護士は少ないのではないでしょうか。
大事なのは「共感すること」
ーー依頼者と接する上で心がけていることはありますか?
同じ目線に立ち、できる限り共感することを大事にしています。どんな依頼者でも共感できる面はあるはずだという気持ちを忘れないよう心がけています。
法律家である以上、法律はどうなっているのか、依頼者の悩みは法律で解決できるのか、ということを説明するべきことは当たり前ですが、単に法律家としての上から目線で話しても依頼者の納得は得られませんし、信頼してもらうこともできないと思いますので、親身に寄り添い、目の前の依頼者のために何ができるかを常に考えながら、質問をしたり話を聞いたりするようにしています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
今後も、ライフワークである障害者の権利擁護とスポーツの法律問題の相談依頼に精力的に取り組み、ますます専門性を高めていきたいと考えています。これらの問題に対する情報発信もしていきたいです。
最近はパラリンピックの影響もあり、障害者スポーツが注目されていますが、例えば、依然として障害者スポーツの競技、練習環境は、障害のない方のスポーツと比べて恵まれていません。障害者差別解消法という法律がありますが、障害者スポーツに関しても、この法律に照らして、改善が期待されるべき問題が多数あるはずです。こうした障害者の問題とスポーツ法にまたがる問題については、まだ研究成果も、実務での取り組みも十分なものはなく、課題として取り組んでいきたいと考えています。
そして、なんと言っても、私の原点は、司法へのアクセス障害の解消、「誰1人取り残さない。泣き寝入りをさせない」ための、地域司法の充実にあります。ですから、「この町のために」という地域貢献に身を捧げたい、地元の方の支えになりたいという思いは、いつも胸の中にあります。
ーー法律トラブルを抱えて、悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
トラブルを抱えている人は、まるで、終わりが見えない暗闇のトンネルを歩いているような、とても苦しい状況にあると思います。私自身の経験からも、時に、本当に長い長いトンネルで、その中から抜け出すのは簡単なことではないこともあります。しかし、一緒に悩み、解決に向けて尽力しますので、どうか、明けない夜は無いと信じて、一人で抱え込まず、気軽にご相談ください。