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ライブハウス、法律上は「飲食店」 1ドリンク制をめぐる誤解を弁護士が斬る
画像はイメージです(Makoto Sitizima / PIXTA)

ライブハウス、法律上は「飲食店」 1ドリンク制をめぐる誤解を弁護士が斬る

ライブハウスの音楽イベントでよくある「1ドリンク制」。クラシックのコンサートや大規模会場のライブでは必須ではないのに、「なぜライブハウスでは頼まないといけないの?」と疑問に思ったことはないでしょうか。

お酒で勢いをつけた方が楽しめるから。お店の売り上げのためーー。いくつか推測できますが、実は法的な問題も絡んでいることはあまり知られていないようです。

若林翔弁護士は、ずばり「興行場法」の対象になることを避けるためだと言います。一方で、ネットでよく言われる「風営法」は関係ないのだとか。くわしく話を聞きました。

●ライブハウスは「飲食店」扱い

ーーなぜ、ライブハウスはワンドリンク制になっているのでしょうか?

興行場法の適用を避け、許可がおりやすい「飲食店」として営業したいためだと考えられます。

「興行場」の許可を得るには、いくつかの要件があり、運営上守らなければならない決まりもあり、飲食店として営業する方が都合が良いからです。

ーー興行場とは?

興行場法では、映画・演劇・音楽・スポーツ・演芸などを見聞きさせる施設を「興行場」といい、経営するには許可が必要だと定められています。法律上、興行場について、これ以上に細かい定めはなされていません。

そこで、現状の運用では、飲食店での「集客」の手段として映画やライブをおこなっている店については、興行場にあたらないと解釈して営業しているようです。

ライブハウスの1ドリンク制も、「飲食をせずにライブだけを見るお客さんはいません。飲食がメインで、ライブは集客の手段なんです。だから『興行場』にはあたりません」という興行場法の適用を回避する言い分を確保するためのものだと考えられます。

ただし、実際に興行場法の無許可営業で刑事事件になった場合に、この言い分が通じるかどうかは、飲食店としての実態の有無、当該営業所においてライブの占める割合などの営業実態を総合して判断されるでしょう。

●風営法との絡みでいけば、むしろ営業時間が関係する

バーカウンター

ーーネットでは「風営法を避けるため」と説明されることも多いようですが…?

1ドリンク制と風営法はあまり関係ないのではないでしょうか。ライブハウスの営業について、風営法で関係が深いのは、「特定遊興飲食店営業」です。これは、ナイトクラブの摘発問題をめぐる近年の法改正で新設された営業形態です。

「特定遊興飲食店営業」とは、(1)ナイトクラブその他設備を設けて客に遊興をさせ、(2)客に飲食をさせる営業(客に酒類を提供して営むものに限る)で、(3)午前6時後翌日の午前零時前の時間においてのみ営むもの以外のもの(風俗営業に該当するものを除く)、とされています。

誤解をおそれずに簡単に説明すると、深夜に酒を提供して、客を遊ばせる施設です。ワンドリンク制は「酒の提供」にほかなりませんから、風営法を避けることにはなりません。

そもそも、「特定遊興飲食店営業」をするには、さまざまな制約がありますので、日をまたぐ前に営業が終わるライブハウスが大多数ではないでしょうか。

●ドリンク代「500円」が多い理由

ーーということは、クラシックのコンサートでワンドリンク制があまり見られないのは?

コンサートホールは通常、興行場の許可を取得しているでしょうから、わざわざワンドリンク制にして、「コンサートは集客のための手段だ」という形式をとる必要がありません。同じように、ドームなども興行場の許可を取得しているでしょうからワンドリンク制は不要です。

また、飲食店でライブがある場合は、飲食をしないお客さんというのは通常想定されませんので、ワンドリンク制は不要と言えそうです。

ーーライブのドリンクは500円のことが多いと思います。高いと批判を受けることもありますが、価格に決まりはあるのでしょうか?

価格設定は自由です。500円というのは、お釣りが出た際の処理が早いからではないでしょうか。会場側にとっても、少なくない収益になっていると考えられます。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

若林 翔
若林 翔(わかばやし しょう)弁護士 弁護士法人グラディアトル法律事務所
顧問弁護士として、風俗、キャバクラ、ホストクラブ等、ナイトビジネス経営者の健全化に助力している。また、店鋪のM&A、刑事事件対応、本番強要や盗撮などの客とのトラブル対応、労働問題等の女性キャストや男性従業員とのトラブル対応等、ナイトビジネスに関わる法務に精通している。

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