不利益を最小化し、事件後の人生をよりよくするために〜捜査実務を踏まえた最善の弁護活動を
法律の面白さに目覚めた、労働法の最終試験
ーーはじめに、鐘ケ江先生が弁護士を目指された理由やきっかけを伺えますでしょうか。
子どもの頃から「公共のために役立つ仕事がしたい」という夢があり、国連職員や官僚を目指していました。
ところが、高校2年生の時、落葉状天疱瘡(らくようじょうてんぽうそう)という病気にかかりました。日本国内に患者数が数千人しかいない難病です。入院と治療を経て、症状はかなり良くなりましたが、病気になったことを1つの理由に、国連職員や官僚になる夢は一旦諦めました。
それでも、公共のために役立ちたいという気持ちは持ち続けていたので、「とりあえず弁護士にでもなるか」くらいの軽い気持ちで法学部に進学することにしました。当時は正直、法律にもあまり興味はなかったです。司法試験の勉強を本格的に始めてからも、「試験に受かるためにはこの問題をこう解答しなければならない」といった機械的な勉強をしていて、法律が面白いとはなかなか思えませんでした。たくさんの基本書に手を出すのはダメだとかいわれていたので、定評のある基本書を各科目2冊ずつだけ購入したり、司法試験の過去問集を解いたりしていましたね。
法律に対する見方が変わったのは、ロースクール2年生の頃です。母校の九州大学法科大学院で、当時の院長だった野田進先生の労働法の講座を受けたことが転機になりました。講座の最終試験で、こんな問題が出たんです。
「ある中小企業が、大企業出身の40代の社員を中途採用した。ところがその社員は、大企業のやり方を押し付けてきて、他の社員とも良い関係を築けないため、解雇したいと考えている。このような相談を受けた場合、弁護士としてはどう対応するべきか」
実は試験のとき、熱があって頭がぼんやりしていて。解答がけっこうぐちゃぐちゃだったんです。
一文目に「今日はようこそいらっしゃいました」と書いて(笑)。その後も、法律の話というよりは、「40代でリストラされたのか、中途退社したのかはわからないが、どちらにせよ大企業でプライドを傷つけられた人なのだと思う。だからこそ、他の社員に対して突っ張ってしまうのだろう。会社としては、その社員の心情を理解して接することが重要で、解雇はそう簡単にはできない」といったことを書いたんです。
そうしたらなぜか、すごく評価が高かった。「法律でこう決まっていて通説はこうでこういう判例があって、だからこうなる」といったガチガチの解答が全てではないということに、そのとき気づきました。
法律の勉強が面白くなったのはそれからです。図書館で、気になった本を一気に10冊くらい借りて、気ままに好きなだけ読みました。基本書も何冊も読み込んで、疑問が浮かんだら納得できるまで徹底的に調べました。
ーー今でも、かなりの数の本を読んでいらっしゃると伺っています。
年間300万円以上を書籍購入に充てています。気になることがあれば古い本でも取り寄せて調べます。特に、判例や学説について、当時の社会情勢や学説の議論状況、背景にある考え方にまでさかのぼって調べるように意識しています。
法律は生き物のようなもので、当時の社会情勢や、他の法制度の内容によって、考え方はガラリと変わります。1950年では適切だった考え方が、2000年でも同じとは限らないし、2020年であればなおさら違うはずです。
でも、一見、時代に合わないような考え方も、原典にあたってみると「なるほど、こういう趣旨で言われているのか」「それなら必ずしも不当な考え方ではないかもしれない」と気づけることがあります。だからこそ、原典にあたってみることは大事にしています。
刑事弁護に注力。警察・検察と真っ向から向き合い、依頼者の不利益を回避
ーー 刑事弁護に特に力を入れているということですが、注力するきっかけとなったことを伺えますか。
私は弁護士3年目に独立したのですが、顧問先や前の事務所から引き継いだ案件がありませんでした。「暇だから何かやることないかな」ということで、他の弁護士から国選弁護や当番弁護の仕事を譲ってもらったんですね。
国選や当番の事件を手がけるうち、刑事弁護はあまり苦にならずに取り組めることに気づきました。
刑事弁護は、理詰めの話が通りやすい世界です。相手方はある意味、「国」で、国は法律のもとで動いています。国の判断が不当だと思われる場合もありますが、判断を下した理由が示されるのでこちらも反駁できますし、手続保障もしっかり決められているので、やりやすいと感じました。相性がよかったのだと思います。
やりがいも大きいです。実際に罪を犯してしまった方は、世の中全て敵に回してしまったように感じて、ご家族も含めて精神的に参ってしまうことがほとんどです。そういう方々に「あなたにとって一番いい方法を考えましょう」と声をかけてサポートしていくことで、負担をかなり軽くすることができます。
刑事弁護は犯罪者と接しないといけないから抵抗がある、という人もいます。でも、罪を犯したからといって、根っからの悪党とは限りません。私は、相手が犯罪者かどうかよりも、その人がどういう人で、どんな事情があって罪を犯したのかをよく見るようにしています。
ーー刑事弁護の中でも、特に力を入れている事件はありますか。
今、依頼として多いのは、交通違反や交通事故、大麻所持などの薬物事件、万引きです。以前は盗撮事件に力を入れていて、そのときは依頼者の多くが男性でしたが、今は女性の依頼者も増えました。
これらの事件に力を入れるようになったのは、2023年に受任した交通事故事件がきっかけです。軽傷の交通事故でひき逃げの疑いをかけられた方から、逮捕はされていない在宅の段階で相談を受けました。話を聞いて、「法律上、ひき逃げは成立しないんじゃないか」と感じ、証拠を集めた上で、文献資料を十数点添付した意見書を警察署に送ったんです。すると警察側も真剣に検討してくれて、結果的に不起訴となり免許も失わずに済みました。
ひき逃げが認められると、不起訴でも免許取消しになるケースが多く、仕事や生活で免許が不可欠な方には大きな打撃になってしまいます。それを回避でき、依頼者からとても感謝されました。
他の交通事故事件でも、警察に意見書を提出したところ、こちらの言い分が考慮されて、不当な取り調べなどを受けずに済んだり、判断が変わったりしたケースがありました。一般的には、「黙秘してなるべく警察に情報を与えない」ことが刑事弁護のセオリーと言われたりもします。ただ、実際にこのようなケースを経験したことで、依頼者の供述調書や弁護人の意見書を提出して、警察や検察と真っ向から「こういう理由で、法律上犯罪は成立しない」といった話をすることには意味があると考えるようになりました。
ーー黙秘するより、こちらの主張をはっきり伝えるほうがよい場合があるのですね。
そういうケースもある、ということですね。黙秘し続けるのは本人にとって辛いことなんです。言いたいことがあっても言えないわけですから。かといって本人が思うままに話してしまうと、警察に都合のいいところだけ切り取られて、後々不利になる可能性もあります。そうならないように、弁護士が本人から言い分を聴き、本当に伝えるべきことを抽出して意見書にまとめ、文献などの資料とともに提出する。こうした先回りの対応が功を奏すケースもあります。
もちろん、全ての事件で同じ対応をするとは限りません。黙秘した方がよい場合もあり、特に身柄拘束中の場合は黙秘を選ぶことも少なくないです。一方、在宅事件では、逮捕を回避するためにも、犯罪が成立しないことや、警察の見立ての誤りなどを積極的に主張した方がよい場合もあります。
弁護士の中ではかなり珍しいやり方だと思いますし、リスクがないわけではありません。ただ、意見書を出したことで捜査の方向性が変わったケースも実際に経験してきたので、状況に応じてではありますが、意見を述べるべきケースでは真っ向から意見を述べる、しかも前倒しで進めるという方向性で対応しています。
ーー警察・検察側の事情について知見があるからこそ、できる対応ですね。
警察や検察が何を気にするのか、怪しいと思うのか、どういう状況で逮捕に踏み切るのかーー。長年にわたって刑事事件を手がけ、文献を収集する中で、警察や検察の基本的な考え方を学べたことは大きかったと思います。
意見書を出すときは、弁護士向けの文献だけではなく、警察・検察向けの文献や最高裁判例を添付し、相手の言語で伝えることを心がけています。どの業界にも、特有の常識や重視していることがありますよね。それらを踏まえて提案すると、「確かに」と納得してもらいやすい。刑事事件でも同じだと考えています。
ーー警察による報道発表の回避についても、力を入れていると伺っています。
はい。2025年1月には『季刊 刑事弁護』という専門誌で、「警察の報道発表回避(実名報道回避)のための弁護活動」という記事を執筆しました。情報公開請求で入手した警察の内部資料などをもとに、意見書の提出によって報道発表を回避できる場合があることをまとめたものです。
私は、刑事事件を手がける際に、不起訴や無罪という結果だけではなく、事件が依頼者の将来にどのような影響を残すのかを常に考えています。
最終的に不起訴や罰金で終わっても、報道されてしまうと、情報はインターネット上に残り続けます。「本当はやっていたのではないか」などとあらぬ疑いをかけられるかもしれませんし、本人にとっても足かせになるでしょう。事件後の人生にマイナスの因果を残さず、まっさらな気持ちで新しいスタートを切ってもらうためにも、報道発表の回避は重要だと考えています。
ーー『警察公論』という、警察官向けの専門誌で連載が始まったと伺いました。
はい。2026年7月から、実務教養小説「涼井警部補の事件簿」の連載を開始しました。警察公論の執筆者一覧には警察や検察の要職の方々が並んでおり、私のような刑事弁護を手がける弁護士が連載を持つのは異例だと思います。1年ほど前に立花書房の編集の方からお声がけいただき、驚きましたが、もちろんですと即答しました。
小説形式で、本誌では捜査側、オンラインでは弁護側の視点から一つの事件を描いており、両方読むことで事件が立体的に見えるようになっています。
架空の事件を通じて、弁護士がどう考え、どう動くのか、警察から見えないところでどんな弁護活動をしているのかを読者に伝えられたらと思っています。弁護活動に先んじて捜査側が手を打つべきポイントも解説しています。弁護士の事件の見方や争い方を知ることは、捜査の手抜かりを防ぐことにもつながると考えています。警察と弁護士がお互いの仕事を理解し、各々の活動に活かすきっかけになれば嬉しいですね。
対話を重ねてつまづきの原因を解明し、事件後によりよい人生を送れるようにサポート

ーー仕事をするときに心がけていることを教えてください。
依頼者の本当の願いを見極めることです。発せられた言葉をそのまま受け取るのではなく、心の底で本当に望んでいることを掘り下げます。本人も気づいていない場合が少なくないので、じっくり対話する中で探していきます。
例えば万引きの事件で、本人は「とにかく不起訴にしてほしい」としか言わないとします。しかしそれは表面上の希望で、よくよく聞いてみると、心の底では「万引きなんて本当はしたくないのに、どうしても繰り返してしまう。ここから抜け出したい」と思っているのです。さらに掘り下げていくと、家庭内で抑圧されて強いストレスを感じているなど、様々な事情が見えてきます。そういった、表面に現れていない思いや事情も踏まえて、どうすれば万引きを繰り返さない環境を作れるかを一緒に考えていきます。
不起訴を獲得すればそれで終わりではなく、つまづきの原因を解明して、依頼者が事件後によりよい人生を送れるようにサポートをすることを意識しています。話を聞く際は、決して非難せず、責めません。「この先生なら否定されない」「私にとっての最善を考えてくれる」と思ってもらえるコミュニケーションを大切にしています。
ーーこれまで手がけた中で、印象に残っている案件はありますか。
私が弁護した盗撮事件の依頼者が、再犯してしまった事件です。
最初の事件の後、精神科のカウンセリングを勧めて、しばらく通ってもらったのですが、10か月くらいで「もう自分は大丈夫」と思ったのか、通院をやめてしまって。その後、再犯してしまいました。
10年以上も前の話で、福岡には性依存症の自助グループなどもない時代でした。今だったらもっと踏み込んでフォローして、同じことをさせずに済んだかもしれません。本人からも更生への意欲を感じていたので、なおさら後悔が残る事件です。弁護士が責任を感じることではないのかもしれませんが、もう少し何かできなかったかな、と今でも思っています。
ーーご趣味や休日の過ごし方を教えてください。
最近は休日も仕事をしていることが多いのですが、1年ほど前から週2回、ボディメイクのためにパーソナルトレーニングを受けています。体力がつきましたし、見た目も逞しくなりました。もともと身長が180センチ近くあるのですが、筋トレの効果で身体に厚みが出てきたので、依頼者にも頼もしさを感じてもらえるようになったかなと。
私はリラックマみたいな雰囲気の弁護士を目指しているんです。リラックマは実物大を見ると結構大きいんですよ(笑)。安心感があり、身体が大きく優しい雰囲気の弁護士でありたい。依頼者の不安に寄り添い、一緒に考え、のんびりしているようで実は頼りがいがあるーーそんな存在になれたらと思っています。
あとは漫画もよく読みますし、Facebookで友人とコミュニケーションを取ることや、美味しいものを食べることも大好きです。
ーー今後の展望を教えてください。
依頼者の人生にとっての不利益を最小化し、事件をきっかけに人生がプラスの方向へ進むようにしたいという思いがあります。例えば交通事故一つとっても、事故が起きた背景には、過労運転寸前の働き方をしていた、というような事情があるかもしれません。事故をきっかけに、働き方や生活を見直すことができれば、その後の人生がよりよくなります。
あと何十年弁護士として活動できるかわからないですが、依頼者の不利益をなるべく減らして、人生を立て直すきっかけになるようなサポートができればと考えています。鐘ケ江弁護士に頼んでよかったと、そんな風に思ってもらえる弁護活動がしたいです。
現在は一人で事務所を運営していますが、ここ数年以内に弁護士の数を増やし、東京に支店を出したいと考えています。できれば神保町がいいですね。『警察公論』を出版する立花書房が近くにありますし、何より書店の街なので、本好きの私には最高の場所です。
今後5年、10年と時間が経つ中で、やりたいことや目標は変化していくと思います。ただ、「目の前で困っている方に対して何ができるのかをとことん考え、実行する」という私にとってのコアの部分は、これまでもこれからもずっと変わりません。
ーー法律トラブルを抱えて、悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
初めまして。弁護士の鐘ケ江 啓司と申します。このページを開いていただきありがとうございました。今、大変なお悩みを抱えてこのページを見られていると思います。もし、私に相談いただいてその悩みが解決したら私にとっても大変嬉しいことです。一度、お問い合わせください。