7月19日に楽天による電子書籍サービス「楽天kobo」がリリースされた。日本でも本格的に電子書籍が普及するのではという期待の声がある一方で、専用端末である「koboTouch」を購入したユーザーからは「日本語の書籍が、宣伝されていた3万冊も揃っていない」という不満の声が上がっている。
当初、楽天の三木谷社長のプロモーション活動やkoboTouchの端末紹介ページなどでは、日本語の書籍は約3万冊の用意があるとされてきた。ところがフタを開けてみると、リリースされた7月19日時点でブックストアにある日本語の書籍は約1万9000冊と、3万冊には満たない状態であったのである。
このような状態に対し、楽天は7月中に必ず3万冊のラインナップを揃えると言明したが、リリース当初から3万冊の日本語書籍があると期待していたユーザーからは、楽天の宣伝はオーバートークだったのではという批判が上がった。
それではもし仮に、リリース当初から日本語書籍が約3万冊揃っていることを理由にkoboTouchを予約したユーザーがいた場合、そのユーザーは書籍数の不足を理由として楽天に返金などの補償を求めることが出来るのだろうか。消費者契約問題に詳しい好川久治弁護士に話を聞いた。
●ユーザーはどこまで書籍数に拘っていたか、楽天は3万冊を確約していたのか、がポイント
「予約購入者が書籍数の不足を理由に楽天に補償を求めることができるかどうかは、契約の成立を前提に、(1)購入契約を解消して代金の返還を求めることができるかという問題と、(2)書籍数の不足を理由に契約違反に基づく損害賠償請求が可能かという問題になります。」
「契約を解消する根拠としては、公序良俗に反して無効(民法90条)、錯誤無効(民法95条)、詐欺取消し(民法96条)、消費者契約法4条の不実告知等を理由とする取消し、契約違反による解除(民法545条)などが考えられます。」
「難しい法律上の議論はともかく、『日本語書籍数3万冊』の宣伝文句を見て予約購入をしたユーザーが、どの程度書籍数にこだわって購入を決意したか、楽天がどの程度書籍数を確定的なこととして約束していたかによって契約解消の可否や契約違反を問えるかどうかが決まるでしょう。この点、楽天が、3万冊の日本語書籍数の確保がおよそ不可能であるにもかかわらず、そのことを秘してあえて確定的なこととして広告宣伝をし、しかも、それを信じたユーザーが、書籍数を、購入を決める重要な要素と考えていたとすれば、契約の解消や契約違反による損害賠償が認められる可能性はあると思います。」
●3万冊は確約されていたとはいえず、補償は難しい?
「しかし、多くのユーザーは、発売時点で『3万冊』の登録書籍数が確保されることを必須の条件とは考えていなかったと思われますし、広告宣伝の内容や楽天の発売後の対応を見る限り、楽天自身も発売時点で登録書籍数を3万冊とすることを確約していたとまではうかがえませんので、契約解消を理由に返金を求めたり、契約違反を理由に損害賠償を請求したりすることは難しいように思います。」
「もっとも、契約上の責任は問えないとしても、登録書籍数は携帯端末の品質に関わることですから、実際のものよりも著しく優良であるかのように表示し、不当に購入者を勧誘したとみなされれば、景品表示法の『優良誤認表示の禁止』に抵触し、行政から表示の削除や再発防止措置を命じられることはありますし、リリースが期待はずれに終わってしまえば、市場から厳しい批判と評価にさらされることがあることは言うまでもありません。」
楽天は書籍数を水増しする意図はなかったと弁明しているが、7月31日時点でブックストアに用意されている日本語書籍は約2万2000冊と、当初の予定であった3万冊にはまだ届いていない模様だ。
予約購入したユーザーが法的に日本語書籍数の不足を問うことは難しいと思われるが、クレームの続出などのトラブルに発展しないためにも、早期に日本語書籍数のさらなる拡充が実現されることが望まれる。