認知症の母親が通信販売で不用品を定期購入し、困惑したという経験をつづったノンフィクション作家・松浦晋也氏の記事「その名は『通販』。認知症介護の予想外の敵」が、日経ビジネスオンラインに掲載された。
認知症の母親を介護する筆者はある時、母親宛に奇妙な宅配便が届いていることに気づいた。中身を確認すると、入っていたのは白髪染めと伝票。ところが洗面台の引き出しの中にも、同じ白髪染めが未開封のままごっそり入っていたという。
調べてみると、母親は通販事業者から、「毎月定期的に届く」という契約で白髪染めやサプリメント、酢、乳液などを購入していた。筆者はそれらの商品を返送し解約を申し入れたが、数日後、解約したはずの商品が再び届いた。母親が通販番組を見て自分で購入していたのだが、当の本人は覚えておらず、「知らない」の一点張りだったという。
認知症の親が使いもしない商品を定期購入し、契約したことすら忘れているようなケースで、購入をやめさせたり、そもそも購入させないために、どのような対応ができるのだろうか。浜田諭弁護士に聞いた。
●考えられる対応策は?
「まず考えられる対応策としては、次の2つがあげられます。
(1)商品の情報に触れることを防ぐ
(2)商品の情報に触れても購入することが容易に出来ないようにする
(1)については、親が業者からのDMで商品情報に触れている場合、送ってきた業者に事情を伝えて今後は送らないようお願いする方法が考えられます。
(2)は、親が電話で商品の購入申し込みをしている場合には、お使いの電話を発信制限機能付きの介護電話に替えて特定の電話番号(本件では商品の販売業者)にだけ架電できないようにしてしまう方法が考えられます」
●契約を白紙にすることはできるか?
もし(1)(2)のような対応をしても、結局購入してしまった場合にはどうしたらいいのか。
「その場合には、契約を白紙にするための対応を考えることになります。
商品等の通信販売については、事業者(本件では販売業者)が契約の解除について特約を表示していない場合には、消費者(本件では親)が契約を申し込んだり、契約をしたりした際でも、その契約にかかる商品の引渡しを受けた日から数えて8日間以内であれば、事業者に対して契約申込みの撤回や解除ができ、消費者の送料負担で返品ができるとされています(特定商取引法第15条の2)。
しかし、本件では親に認知症があり、不要な契約の解除等を親自身がすることが期待できませんし、子どもがすることもできません。
不要なものを購入した親の契約を解除して白紙に戻すためにも、先ほどの(1)(2)の方策をとる場合も、『成年後見制度』を利用してお子様自身が親の後見人等に就いてから行うのが無難です」