突然家に来て、高額な商品や不動産を売りつけようとする「訪問販売」。彼らへの対策として、玄関先に「セールスお断り」と書いた紙やステッカーを貼っている家をよくみかける。ところが、そんな「お断り」をものともしない営業職員もいる。
最近まで、東京都内の不動産会社で、投資用マンションの営業職をしていたS子さん(20代)もその1人だった。S子さんは弁護士ドットコムの取材にこう証言する。
「上司には『セールスお断りの家は遠慮して近づかないから、ライバルが少ない。積極的に飛び込め』と言われていたので、かまわず営業してました。実際は、怒られて追い返されることがほとんどですが・・・」
S子さんは「『セールスお断り』の家だと分かっているのに営業するって、嫌がらせですよね。もし通報されたら、逮捕されてしまう行為だったのでしょうか?」と今も罪悪感をいだいている。
「セールスお断り」と明示している家に、「飛び込み営業」をおこなうことは、法的な問題があるのだろうか。正木健司弁護士に聞いた。
●訪問や電話での勧誘は、法律で禁止されていない
「顧客からの依頼がないのに、訪問勧誘や電話勧誘を行うことを『不招請勧誘』といいます。不招請勧誘は、消費者に冷静かつ自由な判断をさせにくくし、不当な契約を誘発する可能性が高い手法です。
無制限に消費者個人の生活圏に入り込んで、平穏な生活を侵害するため、長年にわたり消費者被害の温床となってきたといわれています」
正木弁護士はこのように説明する。何か対策はとられているのか。
「消費者被害を未然に防止するには、不招請勧誘を規制する必要があります。しかし、現状の法規制をみると、はなはだ不十分な状況といわざるをえません。
たとえば、S子さんがおこなっていた投資用マンションの勧誘は、近年、その悪質性が社会問題となっています。しかし、不招請勧誘を行うことは法律上、禁止されていないため、勧誘をやめさせることができません。
もっとも、特定商取引法や宅地建物取引業法により、相手方が契約を締結しないという意思(勧誘を引き続き受けることを希望しないという意思を含む)を表示したにもかかわらず、勧誘を継続することは禁止されています」
●「制度の構築が喫緊の課題」
では、「セールスお断り」と意思表示している家に対しては、そもそも勧誘をしてはいけないということか。
「必ずしもそうとはいえません。『セールスお断り』の張り紙だけでは、意思表示の対象や内容、表示の主体や時期などが明瞭ではないからです。張り紙自体が、さきほどのような『契約を締結しない旨の意思表示』に該当するとは言いがたいでしょう。
しかし、地方自治体の条例の中には、このような張り紙を無視して消費者を勧誘する行為を、不当な取引として指導や勧告等の対象とするものもあります。消費者庁も、張り紙がある場合には、事業者は商売上の心構えとして、そのような消費者の意思を当然尊重する必要があるとしています。
また、日弁連も、今年5月7日付で『不招請勧誘規制の強化を求める意見書』を出しています。より巧妙化・悪質化する消費者被害を実効的に防止するには、不招請勧誘規制を強化する制度の構築が、喫緊の課題といえるでしょう」
正木弁護士はこのように話していた。