「このままでは、東大医学部で学んでいることに自信が持てない」。東京大学の医学研究者がかかわった臨床研究で「不正疑惑」があいついでいることを受けて、東大医学部の学生有志5人がこのほど、総長ら大学側に公開質問状を出した。
学生有志が質問状を送ったのは、6月23日。2日後に大学から回答があった。しかし、その返答に納得がいかなかった学生は、30日にもう一度、公開で文書を送った。彼らはなぜ、こうした行動に出たのだろうか。「公開質問状」を送ろうと呼びかけた東大医学部6年の岡崎幸治さん(24)ら、学生有志に聞いた。
●「実習先で聞かれても説明できない」
「僕たちが求めているのは、不正疑惑が取りざたされている件について、そこに関わった先生たちから、学生に対して直接説明してほしい、という1点です」
岡崎さんは、こう話す。
白血病の治療薬に関する研究では、東大を通じて患者の個人情報が製薬会社に流出した。また、東大教授が主任を務めたアルツハイマー病研究の国家プロジェクトで、臨床データの書き換えが指摘された。さらに、降圧剤の研究でも、東大教授の論文に疑惑が持たれている。
「僕たちはまだ学生ですが、病院実習では直接患者さんたちと向き合う機会もあり、社会から見たら『医療者側の人間』です。実習先では『東大から来た人』として、こうした問題について聞かれたりもします。そうしたとき、ニュースや噂話をもとにしか説明できないのはおかしいと思ったのです」
身近なところで起きた、大きな「疑惑」。岡崎さんらは2月にも、疑惑が持たれている教授の一人に対して説明を求めたが、返答をもらえなかった。そのため、今回は、大学側に対して公開質問状を送ろうと考えたのだという。
「6月には、研究倫理についての『特別講義』が行われましたが、そこでも東大で今起きている問題については、スルーされました。大学側はすべてが決定するまで言及しないということなのかもしれませんが、せめて現状ぐらいは伝えてほしい」「こういった件に関わった先生方はまだ大学にいらっしゃるわけですから、メンバーである僕らも説明がほしい」
公開質問状に名を連ねた学生たちは、口々にこう話した。
●大学側は「考える会」を検討中だが・・・
「公開質問状」に対する、大学からの回答はどういう内容だったのだろうか。岡崎さんは次のように話す。
「学生が出した質問状に、きちんと返答をいただけたことについては、ありがたく思っています。大学側は、白血病の臨床研究である『SIGN研究』については、教員と学生が参加する『臨床研究の倫理と適正な活性化の方策について考える会』(仮称)の開催を、検討してくれているようです」
回答書によると、東大は他の疑惑についても、同じように調査が完了し、大学としての見解・対応が明らかにされた時点で、同様の会の開催を検討中だという。
●卒業へ向け「安心して勉強に打ち込みたい」
この「考える会」では、不十分なのだろうか?
「『考える会』が行われるのは今後、関係者の懲罰委員会を開いて、その結果が出た後とのことです。いつになるのかわかりません。
これからは僕たち6年生は、医師臨床研修マッチングや卒試、実習と、卒業へ向けてどんどん忙しくなっていく時期です。来年2月には、医師国家試験もあります。
7月の現時点で説明可能な範囲でも、やはり当事者となった先生たちから直接話を聞いて、安心して勉強に打ち込みたいと考えています」
岡崎さんはこのように話していた。
6月30日に出した2回目の「公開質問状」では、7月3日までの回答を求めている。彼らの思いは大学側に伝わるのだろうか・・・。