2019年05月15日 11時13分

トヨタ社長「終身雇用難しい」発言、解雇規制が緩和される時代がやってくるのか

トヨタ社長「終身雇用難しい」発言、解雇規制が緩和される時代がやってくるのか
豊田章男社長(2019年5月8日の決算説明会、トヨタ自動車ニュースルームより https://global.toyota/jp/album/images/27803050/)

日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は5月13日、記者会見で「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べ、大きな話題になっている。

日本経済新聞(5月13日電子版)によると、豊田会長は「今の日本を見ていると雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがあまりない」と指摘。一方で、「労働流動性の面でまだまだ不利だが、派遣や中途入社など以前よりは会社を選ぶ選択の幅が広がった。多様性は進んでいるのですべての人がやりがいのある仕事に就けるチャンスは広がっている」と述べた。

朝日新聞によると、終身雇用をめぐっては、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)も、5月7日の定例会見で「制度疲労を起こしている。終身雇用を前提とすることが限界になっている」「だめになりそうな事業を残すことは雇用されている人にとって一番不幸だ。経営者は早くあきらめるべきだ」と語っている。

自工会の会見という場ではあったが、日本的経営の象徴ともいえるトヨタ自動車の社長が、終身雇用が難しいと言及する意味はどこにあるのだろうか。倉重公太朗弁護士に聞いた。

●「終身」を保障できるほど、先行きが見通せない時代への危機感

トヨタ自動車といえば、かつて社長、会長を歴任した奥田碩氏が「リストラするなら経営者は腹を切れ」と発言するほど、雇用維持への姿勢が強い。今回の豊田氏の発言をどうとらえればいいのか。

「トヨタ自動車は過去最高益を更新していますが、たとえ、最高益をあげたとしても、未来においては情報通信・AIと移動が融合して、これまでのように、優れた『車屋』というだけでは生きていけなくなる、という危機感が背景にあるのでしょう。

産業構造が激変する中で、 トヨタでさえも存在意義を賭けて生き残りに必死な中で、『終身』という40年後のことまでをどうして保障できるのか、ということだと思います」

先行きが見えない中、安定的に発展してきた時代の雇用慣行は維持できないということか。

「時代が高度経済成長期とは根本的に異なります。高度経済成長期は、20年、30年先も未来はより成長していると考えていましたし、実際そうなってきました。

しかし、先行きが不透明で経済状況も自社の将来についても、誰もわからない、けれど必死でなんとか頑張っている中で、どんな企業が終身雇用を保障できるのでしょうか。

いま大事なことは、一社での終身雇用ではなく、社会全体で終身雇用されるような、人材移動の負担軽減や、日本全体で見た労働力の最適配置となるような雇用法制でしょう」

●「まずは、解雇の金銭解決の法制度から」

そうなると、雇用の流動性をどう進めるか、という話になるのか。

「そうですね。解雇規制のあり方も含めて、議論すべきだと思います。ただ、誤解のないように申し上げておきますと、企業が自由に解雇できるようなアメリカ型が日本にマッチしているとは考えていません。解雇を金銭補償で解決するヨーロッパ型が望ましいと考えています」

しかし、簡単にはクビにできない現状の正社員に対する日本人のこだわりは強いのではないか。また、これまで終身雇用を前提として、会社のいいなりになってきた人にとっては、酷な話ではないのか。

「だからといって、全体で沈没してしまうのは非常に怖いことです。先行きが見通せない時代に突入する中で、高度経済成長期の幻想をずっと引きずっても、前向きな流れにはつながりません。

もちろん、今の中高年層がどうすればいいのか、という話はあるでしょう。現在のハローワークを超えた労働移動の仕組みの構築が必要だと考えます。

今後は、労働者が企業に頼りきりになる時代ではなくなるのと同時に、企業にとっても優秀な人材をいかにして自社に引きつけられるのか、という難しい時代になります」

制度問題を考えるうえで、今後のポイントはどこにあるのか。

「まずは、解雇の金銭解決の法制度からでしょうね。これは、解雇をめぐる紛争が起きて、裁判で解雇無効などと判断された労働者に対して、会社がお金を払って、解決を図るという仕組みです。

申し立てを使用者側に認めるか、水準は、裁判のみの利用とするかなど、様々な法的論点が検討されています。

これまで解雇規制に触れることはタブー視されていましたが、こうした法技術的論点の検討が進むだけでも一歩前進なのでしょうが、スピード感を持って進めて欲しいと思います」

取材協力弁護士

倉重 公太朗弁護士
倉重・近衞・森田法律事務所。第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長。日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員、日本CSR普及協会の雇用労働専門委員。経営者側の労働法専門弁護士として、労働審判・労働訴訟の対応、団体交渉、労災対応等を手掛ける他、セミナーを多数開催。多数の著作の他、東洋経済オンライン上での連載「検証!ニッポンの労働」、Yahoo!ニュース個人「労働法の正義を考えよう」等も行う。
事務所URL:https://kkmlaw.jp/

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