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新入社員「セクハラ被害」を相談 「モテ自慢?」「なぜ拒否しない」バッシングで二重の苦しみ
取材に応じたユミさん(仮名)

新入社員「セクハラ被害」を相談 「モテ自慢?」「なぜ拒否しない」バッシングで二重の苦しみ

セクハラや性被害を告発する「#Me too」運動。ハリウッドの大物プロデューサーのセクハラ疑惑が報じられたのをきっかけにアメリカで始まった運動が、日本でも広がりを見せている。

「週刊新潮」(4月19日号)が報じた財務省の福田淳一事務次官のセクハラ疑惑についても、テレビ朝日の女性記者が「不適切な行為が表に出なければ、セクハラ行為が黙認され続けてしまうのではないか」と週刊新潮に情報提供したことにより明るみに出た。

そうした声をあげる動きに水を差すのが、告発者へのバッシングだ。広告関連会社で働く新入社員のユミさん(仮名)は、セクハラ被害よりも「相談した時に、周りからバッシングを受けたことが一番嫌だった」と話す。(編集部・出口絢)

●初対面の部長「性欲の対象って何才まで?」

新入社員のユミさんが、社内で「セクハラ大魔王」とも言われている男性部長(30代後半)と初めて話したのは、他部署も交えた交流会の時だった。

「交流会には、私以外あまり女性がいなかったんです。初対面だったので上司に挨拶に行けと言われ、そのまま隣で話していたのですが、だんだん仕事の話から脱線して、『性欲の対象って何才まで?』『バツイチってどう思う?』と聞かれました」

部長は離婚歴があった。本人を目の前に真っ向から否定することもできなかった。「相手は社内の偉い人。飲み会の場で空気を壊してはいけないと思って、必要以上にノリよく答えてしまったことも後悔してます。当時は加減がわからなくて」。

●上司の批判「キャバ嬢じゃないんだから」

それから、社内メールで「今日も可愛いね」「本当に細いよね」などと頻繁にメッセージが来たり、一対一での飲み会に誘われたりするようになった。男性上司に相談すると、返ってきたのはこんな言葉だった。

「キャバ嬢じゃないんだから、相手に気を持たせるようなことを言っちゃダメだよ」「飲み会の時も見計らって抜けなきゃ」「彼氏いるって言ったの?」「なんで拒否しなかったの」

男性上司だけではない。同僚に話すと「モテ自慢されたんだけど(笑)」と陰口を叩かれ、女性上司からは「本当に嫌だったら無視するよね」と言われた。

「部長のセクハラ発言そのものよりも、周りからバッシングを受けたり、『おじさんキラー』『下ネタも平気な女』と思われたりしたことが嫌でした。そもそも『生け贄』として部長の隣に差し出したのは、あなたたちでしょって」

●セクハラ「あってはならないと思っていない人が多い」

こうしたセクハラ被害者に対するバッシングは、なぜ起こるのだろうか。

セクハラに詳しい山崎新弁護士は、「そもそもセクハラは『あってはならない』と思っていない人が多いために、被害者側の対応に非難が集まる」と指摘する。

「セクハラが『あってはならない』ではなく『なくならない』『仕方ない』という認識でいると、社内でセクハラを目の当たりにしても『流すしかない』と捉えられていく。

セクハラの存在を前提とするから、周りは被害者の対応次第だと考えるようになる。場の空気を尊重しないといけないと思いこみ、セクハラの深刻さを軽く捉えているから。

だからこそ被害者の申告に対して『わざわざ場を壊すようなことを言わないでほしい』と思えるのでしょう」

●当事者は拒否できないから、周りが止める必要がある

今回のユミさんの事案について、「新入社員の女性はどうしたらいいか分からなくて当然。会社全体がセクハラに対して意識が低いと言わざるを得ない」と山崎弁護士は厳しく批判する。加えて、上層部に女性がいないという構造的な問題に言及した。

「例えば、この飲み会が男女同数で、男性部長だけでなく女性部長もいたら状況はどうだったでしょうか。よりによって『セクハラ大魔王』などと呼ばれる男性部長の隣にユミさんを座らせ、まるでお酌をして機嫌をとれと言わんばかりのことはしないでしょう。セクハラ発言があっても周りが止めてくれるのがあるべき姿だと思います。

日本の女性が社会進出し始めた時代には、圧倒的に少数だった女性は孤立無援でした。セクハラにも仕方なく『かわす』とか『傷ついていないふりをする』という方法をとらざるをえなかった。

でも、それをこの時代に新入社員に求めるというのは大間違いです。もはや時代は変わった。その方法を若い人にも求めるのは、年長者の悪い癖でしょう」

さらに、今回のユミさんのように、最初は会社の飲み会で話すようになり、LINEなど個別でやり取りを求めたり、2人きりで会うことを求められるようになるのは「典型的なセクハラのエスカレート例」だという。

「セクハラは、加害者側がどこまで男女関係を深めることができるかを、被害者の反応を見ながら試し試しに進めていくため、決定的に女性が拒否するまではどんどんとエスカレートする構造にある。

でも上下関係でしばられた女性は拒否できず、押し切られてしまう。だから周りが止める必要があるのです」

●セクハラをめぐる状況「変わって来た」

福田事務次官のセクハラ疑惑をめぐっては、麻生財務大臣が「被害にあったという女性が名乗り出てこなければ、事実の認定はできない」(4月17日)という見解を示したことについて、多くの批判が上がった。

山崎弁護士は「昔だったらもう少しあの発言も『それはそうだ』と受け止める人もいたと思う」と話す。

今回はセクハラへの理解のなさを露呈する発言と捉えられた。だからこそ「数十年前に比べて、セクハラをめぐる状況はだいぶ変わってきた」と現状に期待も持つ。

「勇気を持って申告した人の被害の実態にきちんと耳を傾ける必要があります。一人の声ではなく、皆が『おかしいよね』と言うことで、これが人権侵害だという認識を社会が共有するようになります。

セクハラもそういう時期に来ていると思います。『大したことではない』『やられる方も悪い』などと言っていては、世界からの批判を浴びることになります」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山崎 新
山崎 新(やまざき あらた)弁護士 アイリス法律事務所
2009年弁護士登録。東京弁護士会・両性の平等に関する委員会委員長。日本労働弁護団・女性労働プロジェクトチーム。離婚、相続、労働、その他一般民事を扱うが、DV、セクハラ、性暴力被害など女性の権利に関するものや、性的マイノリティー(LGBT)の人権に関する法律問題に特に力を入れている。

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