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「たった1人の弟の命が失われた」自殺したラジオ局員の遺族、当時の経営者個人を提訴
原告側の代理人をつとめる嶋崎量弁護士

「たった1人の弟の命が失われた」自殺したラジオ局員の遺族、当時の経営者個人を提訴

千葉県市川市のコミュニティFM局「市川エフエム」に勤めていた男性社員(当時39)の自殺について、遺族が3月23日、運営会社の実質的な経営者だった男性を相手取り、約2855万円の損害賠償を求めて、東京地裁に提訴した。男性社員の姉で、原告の女性は、代理人を通じて「弟の死と正面から向き合ってほしかった」というコメントを発表した。

男性社員の自殺(2010年10月)をめぐっては、安全配慮義務を講じなかったとして、「株式会社市川エフエム」に対して、約2974万円の損害賠償を支払うよう命じる判決が確定している(2016年9月)。しかし、自発的な支払いがないまま、同社は2016年12月、破産手続きを開始した。

原告側の代理人をつとめる嶋崎量弁護士によると、強制執行による差し押さえはしたが、一部(約119万円)しか回収できなかったという。今回の訴訟では、その残りについて、男性社員の死亡時から破産申立まで取締役であり、実質的な経営者だった男性個人の責任を追及することになる。

亡くなった男性社員はもともと精神的な疾患を持っていたが、職場の人間トラブルが原因で、2010年1月の入社後に自殺未遂を複数回はかっていた。原告側は、実質的な経営者だった男性が、このような状況を認識していたにもかかわらず、安全配慮義務を怠ったとしている。

男性社員の姉で、原告の女性は3月23日、代理人弁護士を通じて、次のメッセージを公表した。

●「せめて今出来ることから逃げず、人間とまともに向き合って欲しい」

私は、会社の実質的な経営者であった●●氏に弟の死と正面から向き合って欲しかった。

生前、弟に上司として出来ることをして欲しかったのは勿論、取り返しのつかないことになってしまってからも、これから何を出来るかを考えてほしかった。もう二度と、同様のことを起こさない立場に立って欲しかった。

例えば、3月には全国的に自殺対策強化月間があります。そういった折に、市川FMで自死予防に関わりのある番組を作るなど、出来ることはあったはずです。

ですが、実際には、前の裁判と、仕方なくそこに踏み切るまでの長い長い交渉期間において、●●氏はまともに私たちに向き合おうとはしませんでした。法で決まった残業代支払にも応じず、単純な事実関係すら説明しようともせず、判決に従おうともせず、地域の人たちに親しまれ、ボランティアの方々や部活動の学生さんたちが大切に思っていたコミュニティラジオ局(市川エフエム)を潰して逃げていきました。

まともな応対すらない、という怒りは、弟の生前、職場での姿が重なって想像できてやりきれませんでした。

最後に会った時、弟は仕事の資料集めや勉強について、生き生きと語っていました。前の裁判は「市川 FM DJ 事件」など呼ばれているようですが、実際には、資格を持った無線技士としての入職で、それ以外にアナウンスやDJ、営業まで行うなんでも屋として頑張っていました。

あの語り口を思い出し、そのすべてのラジオ局の仕事を大切に思っていたことを私は確信している。

長い交渉と裁判の末、それに報いるような対応が全くなかったことに絶望と怒りを覚えた。

人が1人死んだことと向き合って欲しい。私という人間に最後に残されたたった1人家族の命が、そこで失われたという事実と向き合って欲しい。

弟のことは取り返しがつきません。

せめて今出来ることから逃げず、人間とまともに向き合って欲しい。それが私の願いであり、今回裁判の動機でもあります。

以上

(弁護士ドットコムニュース)

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