フリーランスのライターの活動の場は、雑誌、書籍のような紙媒体に限らず、企業のオウンドメディアなどウェブ媒体にも広がっている。しかし、当のライターたちからは、古い業界慣習、支払いをめぐるトラブルに戸惑っている声もあがる。(参考:「『フリーランス』ライター、契約書交わさない業界慣習でトラブルに…踏み倒しも発生」https://www.bengo4.com/c_5/n_7205/)
発注する側である出版社やウェブの編集者はどう考えているのか。一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」(以下、フリーランス協会)が、ライターに発注する出版社や、ウェブ媒体を運営するIT系企業の従業員たちに匿名でアンケートを実施したところ、約3割が発注書や業務委託契約書を交わしておらず、著作権法や下請法などの法律について知る機会は51.2%が「ない」と答えている。(アンケート実施:2017年10月、有効回答数:41)
●3割が契約書を交わさず
仕事の発注をする前に、発注書や覚書、業務委託契約書などの契約書を交わしたのは70.7%、29.3%は契約書を交わしていなかった。フリーランス協会が実施したライター座談会によれば、支払いをめぐる大小様々なトラブルが発生していることがわかっている。
発注書などの文書を交わすことで回避できることも多いはずだが、ライターへの依頼方法(複数回答あり)として、最多のメール(90.2%)に続いて口頭(42.8%)となっている。このアンケートに回答した編集者には、出版社以外の編集者も含まれるが、「大手出版社との仕事では、どの社も、発注は口頭で、ギャラがわかるのは実際に振り込まれてから」(ベテランライター)との声もあった。
なお、発注時に伝達している項目として、企画内容(92.8%)、納期(88.0%)、原稿料(82.9%)、取材日時(40.4%)、支払日(41.4%)の5項目が伝えられることが多いようだった。交通費の有無(34.1%)、書籍などの資料購入費用(24.3%)を伝える社もあった。
ライターと仕事をする上で必要となる著作権、下請法などの法律について知る機会は、「ない」(51.2%)が、「ある」(48.8%)を上回った。
●「ライター側のリテラシーが不足」「適切な価格設定に苦労する」
発注者側の都合や社会的な要因などで企画がボツになったり、変更が生じたりした経験をもつ編集者は多いはずだ。そのような場合、どうしたのか。アンケートのフリー回答を紹介したい。
「広告主の都合で掲載に至らなかったが、発注通りの金額を支払った」というケースもあるが、「相互に相談、了承の上で報酬額を再決定した」「中止の際、本来、発生する額よりは少ない金額をお支払いしたことがある」。「取材後であれば仕事が行われた場合と同等の支払いを行います。取材前であれば他の仕事をお願いするなど」の対策をしているようだ。
また、発注者側からも戸惑いの声も寄せられた。
「契約を結んでいてもドタキャンなどが起きることがある。ライター側に法規を含めたリテラシーが不足しており、とはいえ会社側として教育を委託先にまで行う余裕はない」
「相手の力量がわからない段階で依頼する場合、適切な価格設定に苦労する。名前のある人でも納品物のクオリティーが低いこともある。ギャラを上げることは簡単だが、信義上、下げることは難しいので」
「原稿単価(文字単位)は事前にお知らせしていますが、取材してみないとページ数や文字量が確定しないため、依頼時に支払額の保証ができていないのは課題」
発注する側とライター双方が安心して仕事を継続するために、何が必要になるのか。著作権を中心とするエンタメ法務に詳しい高木啓成弁護士は「契約書を作れば、未然に防げるトラブルが多い。ライター、出版社双方の利益のためにも契約書を交わす文化を定着させた方がいい」と指摘する。(「すべて口約束」文化に立ち向かう、フリーランスライターに必要な2つの「契約書」 → https://www.bengo4.com/c_5/n_7207/)