宮崎県内で食材を小売店に販売する会社の男性社員が2012年に死亡し、宮崎労働基準監督署が労災認定しなかったことの取り消しを遺族が求めていた裁判の控訴審で、福岡高裁宮崎支部は8月23日、国側の控訴を退け、一審と同様に労災を認める判決を言い渡した。
男性の時間外労働は、いわゆる「過労死ライン」として、労災認定の基準とされている月80時間を下回る50時間台だったが、判決では、時間外労働だけでなく、クレーム対応など、精神的な負担も含めて総合的に評価された。
●週に3回の日帰り出張+クレーム対応
男性は、食材を小売店に販売する営業担当者で、亡くなる1週間ほど前から、早朝から片道4時間の高速バス乗車の日帰り出張などが3つ集中していた。さらに、重要な取引先から、食材の異臭についてのクレームが発生。その対応も重なり、強い精神的、身体的な負荷が短期的に集中してしまったことが、発症につながったと認定された。
遺族側の代理人の波多野進弁護士によると、国の脳・心臓疾患の労災認定基準の一つとして、発症前1か月でおおむね100時間、2〜6か月の平均でおおむね80時間の時間外労働がある。さらに、これらの時間に達しなくても、精神的緊張を伴う業務や、出張などの負荷も含めて、労災認定されるべきとされているが、実際の労基署の運用では、過労死ラインの時間に達しないと、労災が認められないケースが多いという。
今回の判決は、亡くなった男性が50時間台の時間外労働だったにも関わらず、労災認定されたかたちとなり、波多野弁護士は「時間外労働が1か月80時間を相当下回っていても、それ以外の負荷の立証ができ、総合判断に持ち込めば業務起因性が認められるという当たり前の判断を示した」「現行の労災認定の運用が完全に誤っていることを再度示した」と評価している。
また、そもそも「過労死ライン」に達しない時間外労働だったとしても、疲労の蓄積が進むとして、労基署の「杓子定規」な判断を批判する。
「国の認定基準などでは、『45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる』としており、今回の裁判の一審判決(控訴審判決も踏襲)でも、男性の『発症前6か月間の平均時間外労働時間は約56時間に達していた』『その時間数に照らし相当程度の疲労の蓄積させるに足りる』と判断しています。
認定基準も45時間を超える時間外労働の存在は疲労を蓄積するという前提に立っていますが、労基署の認定の実務の運用ではこの点が無視されています」