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2017年01月01日 08時27分

求人詐欺「罰則規定」あるのに「適用ゼロ」、なぜハードルが高い? 改正の動きは?

求人詐欺「罰則規定」あるのに「適用ゼロ」、なぜハードルが高い? 改正の動きは?
笠置裕亮弁護士

求人票と実際の労働条件が異なる「求人詐欺」を罰するため、政府が「職業安定法(職安法)」の改正を目指している。12月7日には、改正案のもとになる報告書がまとめられた。早ければ2017年の通常国会に改正案が提出される見通しだ。

実は、現行の職安法にも罰則規定は存在する。「虚偽」の条件で職業紹介などをした者に対し、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を課す、との記載があるのだ(65条8号)。だが、この罰則、一度も適用されたことがない。一体なぜか。

厚労省職業安定局の担当者によると、現在の職安法の罰則は、仕事をあっせんする「職業紹介事業者」が対象で、「求人者(募集企業)」は含まれていなかったという。今回の報告書では、「虚偽の条件を呈示して…求人の申込みを行った者」(求人企業)も対象にするよう提言している。

これに対し、労働法にくわしい笠置裕亮弁護士は、「求人企業にまで罰則の対象を広げたことは、求人詐欺を防ぐ上で大きな前進と言えます。しかし、職安法上の罰則の適用は依然としてハードルが高い」と危惧する。一体、どこに問題があるのか、話を聞いた。

●「虚偽性」の証明は難しい

ーーなぜハードルが高いのか?

求人の条件が「虚偽」であることの証明が難しいためです。現行法の罰則規定は、「虚偽の広告をなし…」と「虚偽」であることが要件になっています。しかし、これでは「求人段階と募集後とでは事情が変わった」という言い逃れを許してしまいます。

今回の報告書についても、法案にする段階で「虚偽」の部分の要件を緩和するなどの対策が取られない限り、罰則を適用することはかなり難しいと思います。

求人詐欺問題の難しいところは、実際の労働契約の内容は、入社前後に結ぶ「労働契約書」や「雇用契約書」の内容に基づくと判断されるケースが多いということです。

求人票に書かれた労働条件は、労働契約を結ぶよう誘い込むための文句と考えるのが通常の解釈です。そのため、仮に求人詐欺だったとしても、サインされた契約書を出されて、「本人が真意に基づいて納得したではないか」と言われてしまうと、対処が難しくなってしまいます。

ーーそもそも入社前後に正式な条件を提示されても遅いのでは?

ほかの候補や内定先を断っていたら、条件が悪くても「入らない」という選択にはなりづらいですよね。労働基準法15条2項は明示された労働条件との相違があった場合の「即時解除権」を認めていますが、契約解除して改めて転職活動を始めるのは労力と時間がかかります。

労基法では、労働契約の締結に際して、賃金などの労働条件の明示を義務化しています(15条1項)。違反があれば、30万円以下の罰金が科されます(120条)。ただし、「労働契約の締結に際し」と曖昧なので、たとえ入社前後に明示したとしても、必ずしも違法にはなりません。

本来は、締結前に条件が分かっていないと意味がないですよね。面接時や遅くとも内定通知時に交付するよう義務化しないと、求人詐欺の被害はなくならないでしょう。

ーー求人詐欺の被害にあった場合、民事裁判では勝てる?

裁判例が少ない上、この点について確立された最高裁判例はありません。有名な事例として、千代田工業事件(大阪高判平成2年3月8日)があります。求人票には「常用」と書いてあったのに、試用期間が終わると、「有期」の契約書を提示され、サインしてしまったというものです。

判決では、「求人票記載の労働条件は…特段の事情がない限り、雇用契約の内容となる」として、常用従業員であることを認めました。

ただし、実際は労働者側に厳しい判決が出ることの方が多いです。やはり、契約書にサインさせられてしまっている点がネックになっています。

ーー求人詐欺をなくすにはどんな対応が必要?

今回出された報告書は大きな前進と言えますが、被害の根絶という観点から言えば、さらなる法規制が必要でしょう。

まず、求人時に明示した労働条件よりも就労時の条件が低い場合には、直ちに求人企業に対しても指導・監督ができるような規定を整備することが考えられます。たとえば、「明示した労働条件は、実際に就労開始した後の労働条件を下回るものであってはならない」などです。

その上で、罰則規定(職安法65条)の要件を緩和し、詐欺的な求人行為をした企業への刑事罰の適用も容易にすべきです。現行の「虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を呈示して」という要件は極めてハードルが高いものです。就労開始後の労働条件が、求人時の条件を「一定限度を超えて下回っていた」場合には罰せられるようにすべきでしょう。

また、法律を運用する労基署やハローワーク側にも改善すべき点があります。日本の職業紹介機関や労働基準監督官の数は、他の先進国と比べてもかなり少ない状況にあります。法規制を行きわたらせるためには、職員数の増員は急務でしょう。

ハローワークや、厚生労働大臣が権限を行使していくことも求められます。とりわけ、求人企業が労働関係法令違反で処分・公表等された場合の報告を求める権限や、指導や法違反の事実を公表する権限に関しては、積極的に発動をしていくべきです。

加えて、現場の運用を変え、労働市場から求人詐欺を行う企業の排除を図ることも大切です。たとえば、フォーマットを統一した「モデル求人票」に、「この求人票に基づいて労働者を採用する際、当該労働者に対して、最低でもこの求人票に記載された労働条件が労働契約の内容とすることを約束します」とのチェック欄を設けることが考えられます。これにより、求人詐欺を行う企業かどうか、求職者の側には一目瞭然となります。

求人詐欺を根絶していくためには、法規制を厳しくしていくことも大切ですが、現場の運用の改革を図っていくことと併せ、あらゆる観点からの総合的な取り組みが必要となるでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

取材協力弁護士

笠置 裕亮弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「労働相談実践マニュアルVer.7」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所

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