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残業代請求に激怒、従業員を「管理職」にしてチャラに…経営者のそんな手口はアリ?
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残業代請求に激怒、従業員を「管理職」にしてチャラに…経営者のそんな手口はアリ?

「社員から残業代を請求されて困っています。怒りが治まりません」。そんな経営者の悩みの声がツイッターで広がり、「ヤバすぎる」「流石に釣りだと思いたい」と話題になった。

もともとは、2011年にヤフー知恵袋に投稿された相談で、今年9月下旬にツイッターでピックアップされ、広まった。ある洋菓子製造販売の経営者が、既に退職した従業員10人から残業代を請求されたが、無視していたところ、労働基準監督署から呼び出しがあり、残業代を支払うよう命じられたというのだ。

経営者は支払えない金額だったため、「会社基準で管理職だから支払う必要がない」と伝えたところ、「会社都合ではなく、労働法の管理職に準じていないので、請求者全員、管理職に該当しないので支払い義務がある」と言われてしまったそうだ。

従業員たちの平均労働時間は、月に420〜480時間とかなり過酷なレベルらしいが、経営者は「社員達を管理職扱いにしたので残業代は支払わなくても良いと思うのですが、どうなのでしょうか?」「これは何かの嫌がらせ、または言いがかりでしょうか?」と開き直りともとれる悩みを打ち明けている。

どういう状況であれば、管理職とみなされ、残業代を払わなくてもよくなるのだろうか。今回のような言い逃れが通用する余地はあるのだろうか。中村新弁護士に聞いた。

●管理監督者にあたるかどうかの判断基準

「労働基準法41条2号により、『監督若しくは管理の地位にある者』(管理監督者)については、労働時間・休憩・休日に関する同法の規定の適用が除外されます。つまり、管理監督者に対して、使用者(会社)は残業代や休日出勤手当を支払う必要はありません。

管理監督者は、労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体の立場にある者と定義されており、これに該当するか否かは、肩書の名称にかかわらず実質的に判断されています」

では、どう判断されるのだろうか。

「過去の裁判例が挙げている管理監督者に該当するかどうかの判断基準は、(1)事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること、(2)自己の労働時間について裁量権を有していること、(3)一般の従業員と比べてその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇が与えられていること、といったものです。

ただし、(1)の基準については、会社のトップと共同で会社全体の運営に関与することまでが求められているわけではありません。会社の規模や組織形態によってあてはめ方は異なってくるでしょうが、担当部署で経営者に代わって管理を行う立場にあれば、(1)の基準に該当すると判断される可能性があります。

本件の場合、単に名目上、管理職扱いとしただけで、業務の内容や賃金について特に変更しなかったのであれば、管理監督者該当性は否定されることになるでしょう。月に420時間から480時間という労働時間も明らかに過剰であり、このまま放置すると、過労死等の労災事故を招くおそれがあります。労働時間の管理態勢そのものを抜本的に見なおすべき事例です」

中村弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

中村 新
中村 新(なかむら あらた)弁護士 銀座南法律事務所
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、2021年9月まで東京労働局あっせん委員。2023年4月より東京労働局労働関係紛争担当参与。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。

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