政府は、長時間労働の抑制など働き方改革の実現に向け、「働き方改革実現会議」を設置し、本格的な議論を始めた。9月7日には、労働者に事実上無制限の残業を課すことができる労働基準法の「36協定」の運用を見直し、1ヶ月の残業時間に上限を設定する検討に入ったことが報じられた。
36協定を結んだ場合には、現行法でも、残業の上限を「1ヶ月45時間」と定めている。しかし、実際は例外規定に基づき、労使の合意があれば上限は守らなくていい。報道によれば、上限を超える残業を原則禁止とし、違反した場合の罰則規定を設けることなどの具体策を練る。
36協定の運用見直しや、罰則規定の新設で残業規制は強化できるのだろうか。実現に向けた課題について、今泉義竜弁護士に話を聞いた。
●「インターバル規制や労基監督官の増員・権限強化も」
「36協定を締結していても、実際には特別条項により過労死ラインである月80時間以上の残業も合法とされている現状があります。そうした運用の抜け道をふさぎ、36協定の上限を定め罰則規定を設けるということであれば、それは有効な手段の一つだと思います。速やかに実行すべきです」
しかし、今泉弁護士は「それだけでは不十分です」とも指摘した。
「現在、残業時間の上限は厚労大臣の定める『限度基準告示』によって規制されていますが、労働基準法自体に残業も含む総労働時間の上限を明記すべきです。
また、日本には勤務終了時刻から次の勤務開始時刻までの休息時間についての規制(「インターバル規制」)がありません。休憩が取れないままの連続勤務をなくすために、勤務明けから次の出勤まで11時間は空けなければいけないなどとする『インターバル規制』も新設する必要があります。
さらに、人手が全く足りていない労基監督官の増員・権限強化も合わせて必要でしょう」
●「ホワイトカラー・エグゼンプション」は撤回すべき
この他に、長時間労働抑制のために必要なことはあるのだろうか。
「すでに、野党4党が、労働時間延長の上限やインターバル規制などを盛り込んだ『長時間労働規制法案』を提出しています。これを速やかに審議して、実効性ある労働時間規制を実現することが政治の役割です。
一方、政府の提出している労働基準法改正案は、裁量労働制の対象を大幅に拡大するものです。また、『高度プロフェッショナル制度』(ホワイトカラー・エグゼンプション)の導入により、広範な労働者について残業代をゼロとするとともに、労働時間規制自体をなくしてしまうという恐るべき内容も含まれており、『過労死促進法』とも言われています。
長時間労働の是正と逆行するこの法案は、速やかに撤回すべきでしょう」