働く人の心の健康を確認する「ストレスチェック」が12月1日から始まる。昨年改正された労働安全衛生法にもとづき、従業員50人以上の職場で、年1回の実施が義務づけられる。働きすぎやパワハラによる精神疾患、過労死などを減らす狙いだ。
報道によると、対象となる事業者は全国で約16万、労働者は二千数百万人にのぼる見込み。従業員が質問票に答え、「ひどく疲れた」「へとへとだ」などの項目から当てはまるものを選ぶ。オンラインの回答も可能だ。
検査結果は、医師が直接本人に通知する。高ストレスと判定された人は、希望すれば、医師の面接指導を受けることができる。その後、事業者は医師の意見を聞いて、勤務時間の短縮などの措置を取るという制度だ。
この新しい制度はうまく機能するのだろうか。労働問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。
●従業員が会社を信頼していることが大前提
「まず、会社と従業員の信頼関係が大事です。社内において、本当にプライバシーが守られるのかという心配や、ストレスチェックの結果によって不利に取り扱われないかという不安があると、従業員はストレスチェックを受ける気にはなれないでしょう。
従業員が常にこうした不安を抱えているような会社は、酷い職場だと言えます。しかし、そういった会社であればあるほど、従業員のストレスチェックの必要性が高いというジレンマがあります」
もしストレスチェックで、高ストレスの結果が出ても、会社には知られたくないということで、その後の面接指導を希望しない場合もあるのではないか。
「チェックの結果、高ストレスと診断されたとしても、従業員が会社に『医師の面接を受けたい』と申し出ることは、かなりの抵抗感があると思います。
立場の弱い労働者が会社に対し、『心身の調子が悪い』『調子が悪くなりかけている』ということを宣言するようなものです。会社との間で信頼関係がないと、このような申し出を行うのは難しいでしょう。
さらに、高ストレスと診断されるであろう従業員は、一般的に多忙を極めていることが多いので、ストレスチェックを受ける時間的、精神的な余裕があるのか、仮にチェックを受けて高ストレスと診断されても、医師の面接を受ける余裕があるのか、という疑問も残ります」
ストレスチェックの実施状況は、「自社が働きやすい職場かどうか」という会社のチェックにつながりそうだ。
「そうですね。結局、ストレスチェックは、実施する会社がいかに従業員との信頼関係を築いているか、また、従業員が安心してストレスチェックを受け、それを活用できる状況を設定できるかが、決め手です。この前提がクリアされて初めて、企業への義務化が過労死・過労自殺・メンタル疾患の防止に役立つことになるでしょう」
波多野弁護士はこのように話していた。