ブラック企業の問題が取りざたされる中、「ハローワークがブラック企業からの求人申し込みを受理しない」という案が、国の労働政策審議会の分科会で話し合われている。
ハローワーク(公共職業安定所)は現在、基本的にすべての求人申し込みを受理しなければならないことになっている。このため、残業代を支払わないなど、労働基準法違反が繰り返し認められるような会社からの求人申し込みも受理せざるをえない。
そこで、水際で労働者を守る方策のひとつとして、法令違反を繰り返すブラック企業からの求人を受け付けないというアイデアが、議論されているというわけだ。これによって、働く者は救われるのだろうか。労働問題にくわしい今泉義竜弁護士に聞いた。
●ブラック企業に人が集まらないように
「歓迎すべき議論です。若者を使い捨てにする悪質な『ブラック企業』は、あらゆる手段で市場から排除していかなければなりません。ハローワークには、残業代の不払が横行していたり、求人票と実際の労働条件が違っていたりする企業も、少なからず求人を申し込んできています。
そうした求人申し込みを受理しないという方策は、入口をふさいで『ブラック企業』に人が集まらないようにするための一つの有効な手段になるでしょう。ぜひ、具体化してほしいと思います」
むしろこれまで、法律違反を繰り返す企業からの求人を、真面目に経営する企業と平等に扱ってきたことのほうがおかしな気もする。
「そうですね。そもそも、労基法違反を繰り返している企業に対しては、厳罰をもって改善させる。そして、改善しなければ市場から排除するというのが、根本的な対処であるべきです。最低限のルールも守れないような企業に経済活動をする資格はありません」
●「労働基準監督官」は慢性的な人手不足
労働基準法に違反するような企業が、なくならないのはどうしてだろうか。
「労働基準監督官は、慢性的な人手不足にあります。たった1人で3000事業所を担当しなければならないほどです。ですから、労基法違反による実効的な指導や刑事処罰がなされるケースはごくわずか。残念ながら、多くの現場で労基法が『絵に描いた餅』になってしまっています」
では、ハローワークでの求人不受理という水際作戦は、どのくらい効力があるだろうか。
「一定の成果はあるでしょう。しかし、これだけでは不十分です。職安を通さずに求人広告をしている『ブラック企業』は無数にあるからです。いまは、現場レベルの法執行も含めて、ブラック企業への規制を強化する方向こそが求められていると思います」
いまは、ブラック企業に対する規制を強化していく必要があるというわけだ。
「その意味では、同じ労働政策審議会で議論されている『ホワイトカラーエグゼンプション』制度は大問題です。
この制度は、一言でいえば、企業が残業代を払わずに労働者をいくらでも働かせることを可能にするというものです。法案として国会に提出されようとしており、『過労死促進法案』『残業代ゼロ法案』などと批判されています。
ブラック企業をますますのさばらせるような規制緩和は、絶対に許されません」
今泉弁護士は、このように強調していた。