条文のミスという異例の事態で廃案になった「労働者派遣法」の改正案が、秋の臨時国会に提出された。成立すれば、最長3年ごとと定められている業種ごとの派遣期間の制限が撤廃される。
現行法では、労働者派遣が固定化することを防ぐため、通訳など26の専門業務を除いて、業務ごとに最長3年までの派遣期間に制限しているが、改正案ではその制限を撤廃。3年ごとに派遣労働者を変えれば、どの業務でも無期限で仕事を任せることが可能になる。
改正案については、「企業が業務を円滑に進められる」「派遣労働者が様々な仕事を経験する機会が増える」という意見の一方で、「不安定な非正規雇用が増える」との批判もある。改正案で派遣労働はどう変わるのか。今泉義竜弁護士に聞いた。
●「派遣から正社員という道が閉ざされてしまう」
「今回の改正は、ざっくり言えば、派遣労働者の活用を『完全に自由化』するということです。
派遣労働については、これまで規制緩和が進められてきたという経過はありつつも、一時的・臨時的な労働に限るというのが建前として維持されていました。しかし、今回の改正は、その建前すら一切捨て去るということを意味します。
当然、企業にとっては、都合よく『いつでも切れる』派遣労働者を活用できるメリットがありますし、パソナなどの大手派遣会社にもメリットがあります」
労働者にメリットはないのだろうか。
「労働者には何のメリットもありません。派遣から正社員という道は完全に閉ざされます。逆に、正社員を使い勝手のよい派遣社員に置き換えるということが、これまで以上に急速に進むことが予想されます」
なぜ労働者にメリットがないと言えるのか。
「もともと派遣労働とは、労働者の雇用について、だれも責任を取らないという制度だからです。派遣先は、いつでも簡単に派遣を切ることができます。
契約上、雇用責任を負っている派遣元も、派遣先から切られたことを理由にして首切りを正当化します。派遣切りについて裁判が各地で起こされましたが、労働者側を勝たせる裁判所はほとんどありません。
派遣法がさらに改正され、派遣労働が主流になっていけば、労働者をモノのように扱う『ブラック企業』はますます横行するでしょう。『様々な仕事を経験』『多様な働き方』と言えば聞こえはいいかもしれませんが、裏を返せば、首切り自由の使い捨て労働がより一層蔓延するということです。
2000万人近くにも上る非正規労働者の雇用安定をいかに図っていくかが今検討すべき政策的課題のはずですが、今回の派遣法改正はそれに全く逆行するものです」
今泉弁護士はこう批判している。