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入社10日前、メールで内定辞退に賛否 「信じられない」「会社もお祈りメールをやめろ」
写真はイメージです(yamasan / PIXTA)

入社10日前、メールで内定辞退に賛否 「信じられない」「会社もお祈りメールをやめろ」

<怒りを通りこして呆れてしまう。顔にドロをかけられたような気分だ>

X(旧ツイッター)に投稿された一連の書き込みが1万回以上リポストされている。

投稿者によると、3月22日に、ある会社の採用担当者のもとに内定者から「4月1日に入社できません」「他の会社にご縁を感じたので、貴社には入社できません。申し訳ありません」というメール1通が届いたという。

入社予定だった相手には内定式で誓約書を書いてもらっていたが、反故にされたことに戸惑いと憤りを感じているようだ。 これに対して、「この時期に内定辞退をメール1通で済まそうとする事が信じられない」「企業だって人生賭けて就活してる学生にお祈りメール1通で済ますじゃん」「お祈りメールもやめるべき」などの反応があがっている。

このように入社10日前にメール1本で内定を辞退することに問題はないのか。また、入社する意思を示す誓約書に法的拘束力はないのか。労働問題にくわしい今井俊裕弁護士に聞いた。

●無期雇用なら2週間前に内定辞退できる

ーー内定とは法的にどのような位置付けですか?

内定は、個別の事案にもよるでしょうが、おおむね「始期付きの解約権留保付き労働契約」と言われています。つまり、入社して就労する日が始期付きであり、会社の都合で内定を取り消される可能性があるので、解約権留保付きです。

新入社員 写真はイメージです(takeuchi masato / PIXTA)

一方で、その会社の社員として入社して働く内容はすでに合意しているので、労働契約になります。会社から内定を取り消されるとはいっても、解雇ほど厳格でなくともやはり正当な理由がないと会社は内定を取り消せません。

ーー逆に、内定者のほうから内定の辞退はできますか?

これは雇用期間を定めたかどうか、つまり無期雇用か有期雇用かで異なってきます。

世間でいう正社員は無期雇用で雇い入れられることが多いですが、この場合、2週間前に意思表示をすれば辞職できます。内定の場合でも同様と考えて良いです。その企業で働く意思がない労働者をそれ以上拘束しておくことは人権上も問題があるからです。

また、世間でいう非正規雇用の社員が有期雇用で雇い入れられることが多いですが、この場合であっても、やむを得ない事由があれば、ただちに辞職できます。やはり、やむを得ない事情がある場合にまで特定の企業に拘束しておくのは問題だからです。

しかし、そのやむを得ない事情が労働者側の「過失」で生じたものであれば、会社に対して損害賠償責任が生じえます。

要は、結局、辞職はできるが、労働者側の落ち度に基づく事情で辞職するのだから、それによって会社に損害を与えているならば賠償しないといけない、ということです。

●直前の内定辞退でも会社への賠償責任の可能性は低い

ーー今回Xで話題になっているケースが無期雇用だと仮定した場合、内定辞退者が会社側に損害賠償する責任が発生しますか?

たしかに、入社10日前にメール1通だけで内定辞退の連絡をすることは法的に認められない可能性がありますが、内定を辞退した人が会社に損害賠償しなければならないという可能性は、現実には低いと思います。

内定辞退者が1人出たところで、会社にどれほどの損害が生じているといえるのか疑問です。内定辞退の連絡をした時期にもよりますが、企業としてはある程度の人数の内定辞退者は予め見込んでいるはずであるともいえます。

さらにいえば、すでに現実に業務命令をして配置が決まっている人が途中で辞職の意思表示をしたケースではありません。通常は入社日以降、社内研修もあり、現場に配置される前の段階でしょう。さらに現時点ならばまだ入社日も迎えておらず、その年度の採用予定人員の確保に関してはまだ企業努力の余地もあります。

ーー事前に入社の意思を示す誓約書を書いていた場合はどうなりますか?

その誓約文言によりますが、結論としてはさほど変わらないと思われます。例えば、「いかなる理由が生じようとも内定辞退は致しません」などという誓約はそもそもが無効と扱われるでしょう。

また、「正当な理由なき限り内定辞退は致しません」という文言であっても、問題はその「正当な理由」の有無や内容次第なので、そのような誓約文言が仮にあったとしても結論は大きく左右されないでしょう。

あるいは、「内定辞退したときは貴社に対し違約金として●●万円をお支払いします」というような誓約文言は、労働基準法上そもそもが無効であり許されません。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

今井 俊裕
今井 俊裕(いまい としひろ)弁護士 今井法律事務所
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。

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