「えっ、パソコン開いたままで大丈夫?」。都心部のカフェで時間を潰していたJ子さん(会社員)は、PCを放置したままトイレに立った隣席のサラリーマンの後ろ姿に向かって、そう静かにつぶやいた。
J子さんが座っていた8人がけの大テーブルは満席。離席したサラリーマンの両隣に客が座っていた他、背後にはずらりと多くの客席が並ぶ。そのサラリーマンのPCは周囲からの視線を遮るプライバシーフィルターが貼られておらず、画面には数字が並んだエクセルファイルが映し出されていた。
「さすがに内容を確認しませんでしたが、あの状況では凝視することもできたと思います。盗まれないかハラハラしましたね」とJ子さんは話す。
幸いにして、誰かに覗き込まれることも、PCが持ち去られたりすることもなかった。しかし、悪意のある第三者がいたら……。あまりに無防備に思えるが、仮に盗まれた場合、懲戒処分など責任を問われる可能性はあるのだろうか。西山良紀弁護士に聞いた。
●会社が損害賠償請求する可能性は?
——盗まれたり、PCを閲覧されて機密情報が流出したりした場合、持ち主は懲戒処分を受ける可能性はあるのでしょうか
「労働者は、労働契約上、会社の機密情報を適切に管理し外部に流出させないようにする義務を負っています。
情報流失の原因がカフェでPCを放置したまま離席したことであれば、適切な管理を怠っていたと言え、当該のサラリーマンは懲戒処分を受ける可能性が高いと思います。
どのような懲戒処分を受けるかは、流失した機密情報の内容次第ですが、意図的な情報流失ではないので、過去に何度も懲戒処分を受けているなどの特別な事情がない限り、懲戒解雇の可能性は低いと思います」
——損害賠償の責任を負うこともあり得るのでしょうか
「情報流失により会社が損害を被った場合、会社が当該のサラリーマンに対して損害賠償請求する可能性はあります。
しかし、報償責任の法理(会社は従業員を使用することで活動範囲を拡大させて利益を増加させているのに、従業員がミスしたときの損害を全て従業員に負担させるというのは不公平であるという考え方)により、当該のサラリーマンが負担すべき賠償額は会社の被った損害よりも少ない金額になると思います」