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ウーバーなどのフリーランス激増、「労働基準法」の労働者として保護すべきか
ウーバーイーツの配達員

ウーバーなどのフリーランス激増、「労働基準法」の労働者として保護すべきか

フリーランスとして扱われてきたウーバーイーツの配達員をめぐり、東京都労働委員会が2022年11月に労働組合法上の「労働者」であるとの判断を示し、大きなインパクトをもたらした。

ただ、ウーバーイーツ配達員のように、一定の従属性があることにより、雇用と自営の中間ともいえる働き方をしている人たちをめぐり、残業や最低賃金規制、労災加入などが認められる労働基準法・労働契約法上の「労働者」として認めるべきかどうかについては、議論が活発化していない。

しかし、世界の流れを見ると、ウーバーのようなプラットフォーム上で働く人たちを「労働者」だと認める動きも広がっている。

プラットフォーム上の働き方を含む、フリーランス全般の労働者性をめぐる今後の論点について、労働法学者である橋本陽子・学習院大学教授に聞いた。(編集部・新志有裕)

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●「『事実上の拘束』について、労働者性の判断が厳格すぎる」

労基法などの個別労働法の「労働者」にあたるかどうかについては、昔から様々な争いがあった。裁判などで判断されるポイントは、労基法9条に基づいて、「使用従属性」、つまり、他人の指揮命令下で働いているかどうかが認められるかだ。

その判断要素といえるのが、1985年に労働省(当時)が設置した労働基準法研究会報告のガイドラインだ。労基法は当事者間の合意によらない強行法規であるため、より客観的な判断をするために、以下のような要素を示している。

①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
②業務の内容と遂行方法に対する指揮命令の有無
③通常予定されている業務以外の業務に従事することがあるか
④勤務場所と勤務時間に関する拘束性の有無
⑤労務提供の代替性の有無
⑥報酬の労務対象性.

(補強要素)
事業者性の有無(⑦機械・器具の負担関係 ⑧報酬の額等)
⑨専属性の程度
⑩選考方法や源泉徴収、労働保険、服務規律、退職金制度、福利厚生など、使用者が「労働者」と認識していると推認している点

これらの要素について、橋本氏は以下のようにみている。

「特に問題だと思っているのは、②具体的指揮監督や④時間的・場所的拘束が認められるべき『事実上の拘束』について、判断が厳格すぎることですね。

例えば、トラック持ち込み運転手の労働者性を否定した最高裁判決(横浜南労基署長事件、第一小法廷平成8年11月28日判決)がありますが、運転手は専属的に朝から晩まで働いていたにも関わらず、運送業務の性質上、当然に必要な指示に従っていたにすぎないと判断され、時間的・場所的拘束性も否定されました。

また、NHK受信料の徴収業務をする人については、労組法の労働者性は認められても、労基法の労働者性については否定されています。NHKと徴収人との間で、包括的な契約を締結したからには、契約から様々な義務が生じるのは当然だという判断がなされています。

しかし、そうなってしまうと、契約であらかじめ何でも決めておけば、『事実上の拘束』があっても、単なる契約上の義務ということで労働者性が否定されることになってしまいます」

●「裁判官が緩やかに判断すればいいだけで、新たな立法も不要」

一方で、ウーバーイーツユニオンの労使紛争で問題となった、労組法上の判断基準についても、2011年7月にまとめられた厚労省の労使関係法研究会の報告書で以下のように示されている。

(基本的判断要素)
①事業組織への組み入れ
②契約内容の一方的・定型的決定
③報酬の労務対償性

(補充的判断要素)
④業務の依頼に応ずべき関係
⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的・場所的拘束性

(消極的判断要素)
⑥顕著な事業者性.

労組法の労働者については、労基法よりも広く認められる傾向にあると考えられているが、橋本氏は、労基法、労組法ともに判断要素自体に大きな違いはなく、その当てはめ方がわかりにくいことが問題だと指摘している。確かに、上に挙げた判断要素を見比べても、「時間と場所の拘束」が両方に入っているなど、似通ったものが多い。

画像タイトル ウーバーイーツユニオンの申し立てをめぐる都労委の審問(2021年12月9日、弁護士ドットコム撮影)

ウーバーイーツ配達員の労基法の労働者性について、橋本氏は次のようにみている。

「これまでの裁判例を前提とすれば認められにくいと思います。しかし、基準自体は労組法も労基法も大きくは違わないので、労基法についても、労組法と同様に、裁判官が緩やかに判断すればいいだけです。新たに立法する必要もありません。

ウーバーの場合、アプリをオンにすれば、リクエストを断りにくいですし、実質的に時間や場所に縛られることになるので、拘束されていると考えることはできます」

●世界では労働者性を広く認める傾向に

世界の動きをみると、ウーバーなどのプラットフォーム上で働く人について、裁判で労働者と認めるケースが出ている。

ドイツでは2020年、プラットフォーム上で働くクラウドワーカーを解雇制限法上の労働者と認める判決が出た。イギリスでも2021年、ウーバーの運転手について、最高裁が最低賃金の適用を認めた(ただし、イギリスの場合は、被用者・労働者・独立事業者の3カテゴリーのうち、被用者よりも保護がやや乏しい労働者として認められた)。

「あくまでケースバイケースですが、プラットフォーム上での新しい就労形態については、明らかに労働者性を広く認めていく方向が明確になっています」(橋本氏)

●「最低賃金や労災適用を求める裁判があってもいい」

しかし、日本では、労基法・労契法の労働者にあたるかどうかの紛争もなく、当事者であるウーバー配達員からも適用を求める声はあまり聞こえてこない。

「それでも最低賃金の適用などは問題視してもいいのではないでしょうか。労組法とは別に、最低賃金や労災の適用を求めて、裁判を起こす動きがあってもいい。労働者になることで自由がなくなるという批判もありますが、今の働き方との両立は可能だと思います」(橋本氏)

国の政策としては、ウーバーのようなプラットフォーム上で働く人たちに限らず、フリーランス全般について、契約書面の交付義務化など、今後成立が見込まれる「フリーランス保護新法」で新たな保護を進めることになるが、それは下請事業者としての保護であり、労働法による新たな保護があるわけではない。

「フリーランス保護新法は、下請法のような経済法がベースになっていますが、そのような考え方は明らかに欧州での議論と比較すると異質です。何よりもエンフォースメント(法執行)の観点から懸念を抱いています。労働基準監督官は全国で3000人程度いますが、経産省の下請Gメンは250人程度です。明らかに差があるので、本当の保護になるのか疑問です」(橋本氏)

●「既存の仕事の中でも自営業化が進んでいる」

今後、議論をしていく上では、何が重要になってくるのか。

「これまで説明してきたように、労基法は解釈次第ですので、裁判官の判断には期待したいです。判断するうえでは、ぜひ『業務委託契約』などといった契約の名称ではなく、就労の実態から、『事実上の拘束』から労働者性を裏付ける指揮命令への拘束を認めてほしい」(橋本氏)

特に、橋本氏が注目している事例が、ビジネスホテルチェーン「スーパーホテル」の労働問題だという。本部と業務委託の関係にある支配人・副支配人が夫婦で住み込みで働き、従業員を雇用しているが、その費用は本部が負担しており、「名ばかり支配人」だとして、未払い残業代を求める裁判が起きた(2020年5月28日提訴)。

「ウーバーのような新しい働き方だけでなく、スーパーホテルの問題のように、既存の仕事の中でも自営業化が進む動きがあり、このままでは労働法が空洞化してしまいます」(橋本氏)

●「日本でも労働者の『推定規定』を入れてはどうか」

立法論でやれることとしては、EUやアメリカのような「推定規定」の仕組みに注目しているという。これは、一定の基準を満たした場合に、まずは労働者であると推定するものだ。

例えば、EUのプラットフォーム労働指令案では、ウーバーなどのプラットフォーム上で働く人について、5項目の判断要素の中で、少なくとも2項目が満たされていれば、まずは労働者であると法的に推定し、労働者でないことの立証責任は使用者側に課されている。

「労基法については、現在の労働者性の解釈は狭いので、いったん広げるためには、推定規定を入れて、立証責任を使用者側に負わせることを考えてみてはどうでしょうか」(橋本氏)

今後、ウーバーのようなプラットフォーム上で働く人たちを含めて、フリーランスとしての働き方がますます増えていくことが想定される。しかし、実際は雇用なのか、自営なのか微妙なケースも多発するだろう。グレーゾーンへの対応について、もっと労働法の観点からの議論や新しい動きがあってもいいのではないだろうか。

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