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女性だけに「お茶くみ」の雑務、これって違法になりますか? 新聞コラムが話題
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女性だけに「お茶くみ」の雑務、これって違法になりますか? 新聞コラムが話題

職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。

連載の第27回は「女性だけお茶当番、違法ですか?」です。読売新聞のコラム「人生案内」(1月24日)で、契約社員の40代女性が寄せた「職場で女性だけが担当しているお茶当番を廃止したい」という投稿がネット上で話題となりました。

女性だけにお茶くみなどの雑務をさせることは、法律違反に当たらないのでしょうか。

●お茶くみや清掃の時間は労働時間になる

男女雇用機会均等法(均等法)が施行してから37年(1986年4月施行)、募集・採用・配置・昇進・教育訓練について差別が法律上禁止される改正法が施行されてから24年(1999年4月施行)が経過しようとしていますが、企業によっては、いまだに職場における女性差別は根強く残っています。

その最たる例が、女性のみに早出残業を求め、お茶くみや清掃、ゴミ出しをさせるというものです。私がこれまで様々な労働相談に応じてきた経験では、このような慣行は民間のみならず公務員の職場にも見られます。悪質な場合には、このような労働を労働時間には含めず、残業代を支払わないという会社も存在します。

お茶くみや清掃、ゴミ出しは、職場の良好な環境を維持する目的で行われ、かつ職場からの(明示ないし黙示の)命令によって行われていることが常ですから、当然労働時間に算入されるべき時間であり、残業代の支給対象となります。

では、残業代さえ支払っていれば女性社員のみにこのような労働を任せて良いかというと、そうではありません。

●女性だけにお茶くみ「性別に基づく差別」

均等法は、労働者の配置、昇進、降格及び教育訓練に関し、性別による差別を禁止しています(均等法6条)。この中の労働者の配置には、業務の配分及び権限の付与を含むとされています。

男性労働者は通常の業務のみに従事させ、女性労働者についてのみ通常の業務に加えてお茶くみ・掃除等を行わせることは、業務の配分について性別に基づく差別をしていることになるため、均等法に違反します。

そのため、使用者は速やかにこのような慣行を止めさせなければならない法的義務を負っており、是正しなければ損害賠償義務を負うなどの制裁を受けることになります。

一方、来客対応が職務となっている秘書の場合には、少し話が違ってくると思われます。一定の職務への配置に当たって、その対象から男女のいずれかを排除することは均等法違反に当たるため、秘書の職務を担当する社員を女性に限定してしまっていたら違法となります。

そのような限定をしていない中であれば、女性秘書にも男性秘書にも同様に来客時などにお茶くみや清掃を任せることは、性別に着目した差別とは言えず、均等法違反にはならないことになります。

●性別による区別が認められるケースは?

性別に基づき業務の分担に関する区別が認められるのは、ごくごく例外的な場面においてです。

政府の指針では、以下については、採用や配置において男女で異なる取扱いをしても均等法違反にはならない旨記載されています。

(1)芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から男女のいずれかのみに従事させることが必要である職務     
(2)守衛、警備員等のうち防犯上の要請から男性に従事させることが必要である職務     
(3)1及び2に掲げるもののほか、宗教上、風紀上、スポーツにおける競技の性質上その他の業務の性質上男女のいずれかのみに従事させることについてこれらと同程度の必要性があると認められる職務     

しかし、通常の企業において、このような職務を見出すことはなかなか難しいと思われます。また、仮に守衛や警備業といった会社であったとしても、お茶くみや清掃といった雑務を女性社員だけに任せることには合理性がありませんから、やはり均等法違反となるでしょう。

(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)

プロフィール

笠置 裕亮
笠置 裕亮(かさぎ ゆうすけ)弁護士 横浜法律事務所
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「こども労働法」「就活前に知っておきたいサクッとわかる労働法」(日本法令)、「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。

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