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ウェブ編集者も頭を抱える「ライターの原稿料」問題 紙媒体との違いはどこに?
画像はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

ウェブ編集者も頭を抱える「ライターの原稿料」問題 紙媒体との違いはどこに?

今年(2022年)の春闘で、出版業界でフリーランスとして働く人の労働組合「出版ネッツ」が報酬の10パーセント引き上げを求めたーー。インタビュー記事を掲載したところ、ライターとして生計を立てる人たちから大きな反響が寄せられた。

紙媒体は衰退の一途を辿るが、ウェブ媒体は乱立している。にもかかわらず、ライターがウェブ媒体の報酬だけで生活することは厳しい。この背景を、編集サイドはどう見ているのだろうか。編集者たちに話を聞くと、ライターと同様にジレンマを感じていることがわかった。(ライター・高橋ユキ)

●ウェブ編集者が語る背景とは

雑誌の休刊が相次ぎ、電子コミック以外に好調とは言い難い出版業界に、筆者を含め多くのライターたちには強い危機感がある。数年前からウェブに活路を見出す同業者も増えているが、一様に聞くのが「ウェブでは食べていけない」という現実だった。もちろん例外はあるだろうが、紙媒体のライターから、「食べていけない」と聞くことはないことも事実だ。

前回の取材で、あるライターは「ウェブメディアだけで頑張ろうとしても、苦しくなる」と指摘している(ウェブライターの葛藤、1文字1円はさらに値崩れ「ウェブは紙の半分の原稿料」「頑張ろうとしても苦しくなる」)。

編集者たちはこの現状をどう見ているのだろうか。複数の編集者たちに聞くと、意外にもライターと同じく現状にジレンマを感じていた。

「なぜウェブ媒体の原稿料が安いのかといえば、決してメディア側が利益を独占しているわけではなく、多くのメディアで単体では採算がとれておらず、原稿料を上げる余裕がないから。さらにいえば、黒字化への青写真も見えず、手探りでやっているのが現状ではないでしょうか」

こう話すBさんは、出版社のウェブ媒体で編集者として働く。紙媒体の編集者としてのキャリアもあり、紙・ウェブ両媒体の原稿料に詳しい。

「致命的なのは広告収入の少なさです。雑誌の基本的な収益構造は、いわゆる実売と広告収入の2本柱となっています。一方のウェブ媒体は、電子版配信や記事ごとのばら売り、サブスクがあるものの、現状ではどれも成功しているとは言いがたく、広告に頼らざるを得ません。無料で公開しているサイトは特に実売には期待できないため、収益の幅がどうしても狭くなるのです」(Bさん)

しかも広告料が紙媒体に比べて高いかと言われれば、そんなことはない。

「自社サイトや外部配信先で掲載される広告は、PV数に応じた配分で広告料として支払われます。しかし、そもそものウェブの広告自体が安いため、いくらPV数に応じて支払われるとはいえ、決して大きな金額にはなりません」(同)

紙媒体以上にウェブメディアは記事ごとのPVや売り上げが数字として可視化されやすく、シビアにならざるを得ないとも付け加えた。

●雑誌にあってウェブにはない「三毛作」システム

また雑誌には“のちに書籍化する作品を掲載する”という重要な役割もあるが、ウェブではそれはレアケースであり、あったとしても収益化に直接、結びつくケースは出版社系媒体をのぞいてほぼない。当然のことだが、これも原稿料に関係してくる。

小説の場合、まず雑誌に掲載して販売することで出版社に売り上げが入り、作家に原稿料が支払われる。この時点では赤字であっても、次にその小説を書籍として刊行し、その後、文庫本としても刊行するため黒字になっていくビジネスモデルである。

「単純に1つの小説で 三毛作ができたので、原稿料や印税などを支払っても出版社としても利益があった。しかしウェブ媒体は、連載の掲載にはとても不向きな構造で、書籍化を見据えた展開がとても難しい。そのため、ひとつひとつの記事にかかる費用をどうしても低く見積もらざるを得なくなります」(同)

こうした構造があるため、ウェブ媒体は日々、さまざまに工夫をこらす。広告収入を増やすために記事本数を増やし、ひとつの記事を複数ページに構成し「ページ送り」のたびに広告収入が得られるようにするなどだ。“読まれる記事”を作ろうと、タイトルにもこだわる。

それでも記事にかかわるフリーランスへの報酬を増やすことができないのは、やはり広告収入の少なさゆえだという。

「ニュース配信会社も広告代理店も、コンテンツの価値を相当低く見積もっている。そのために広告収入の分配が低くなってしまう。『入り』が高くならない限り『出』は高くできない」(同)

●「ライターさんには申し訳なさを感じる」編集者もジレンマ

もちろん、こうした現状に編集者らはジレンマを抱えている。紙媒体を経て、オウンドメディアで編集者として働くCさんは「ライターさんには常に申し訳なさを感じている」と吐露する。

「ウェブメディアの相場は、ひとつの記事あたり原稿料は1万5000円〜3万円台です。紙媒体であれば文字数に応じて報酬も上がるのが一般的ですが、ウェブでは1000字でも1万字でも同じ『1本の記事』という扱い方です。

さらにウェブと紙媒体の大きな違いは、経費を別に支払うかどうか。紙媒体では交通費、資料代などの取材経費は原稿料とは別に支払われますが、ウェブでそこまで支給できるケースは少ないのでは。さらに写真撮影も原稿料に含めるところがウェブでは多いですね。ウェブではライターさんが力を入れて頑張るほど、経済的にはプラスにはならないんじゃないか、そんな葛藤があります」(Cさん)

それでも、ウェブ媒体は“誰でもライターになれる”という参入障壁の低さもあって、職業としてなくなることはない。問題はそこから先のキャリア展開だ。

紙媒体では「ひと昔前までは、月刊誌で経験を積んでから週刊誌で書いていただくという流れがあった。その先に出版があり、その結果として講演会やテレビ出演などギャラの良い仕事が発生していた」(Cさん)というが、いまは月刊誌の休刊が続き、フリーランスのライターが経験を積む場がなくなりつつある。

では、ウェブ媒体が紙媒体と同じように、フリーランスのライターにとって“スキルアップできる場”でもあるかといえば、そうではないとCさんは言う。そこにはやはり、原稿料の問題がある。

「例えば何か調べる時に『大宅壮一文庫に行けば資料があるよ』とか『関連書籍は色々読んだ方がいいよ』とか、さまざまな人に会うことなど、特に経験の浅いライターさんには伝えたいことがあります。

ですが、全ての取材経費は支払えないですし、お支払いする原稿料ではマイナスになってしまうので、やってくれ、とも言えない。伝えたいことはあるのに、伝えきれないというもどかしさがあります」(Cさん)

経験の少ないフリーランスに発注をすることにより、媒体側に「教育」というコストが発生することになる。これを避けるため、経験を積んだフリーランスとの仕事を求めるようになる。加えて「ウェブは編集者のマインドが紙媒体とは違う」(同)ことも、フリーランスにとって不幸なことだと語る。

「出版社の編集者は、書いてくださる人をサポートする、縁の下のカ持ちです、という教育を受ける。そこはすごく徹底していました。」(同)

記者としてのトレーニングは積んでいるが、編集者としてのトレーニングは積んでいないケースもあるという。背景としては、記事本数を多く出さなければいけないために一本あたりの原稿に割ける労力が乏しいことがあるとも付け加えた。

●ライターが活躍できる可能性はないのか?

こうした状況のなか、経験が浅いフリーランスのライターがウェブ媒体で活躍するためにはどうしたらいいのだろうか。Bさんは「文章力を磨いてほしい」と切々と訴える。

「今は、誰でも文章を書いて、ブログやSNSで発表できるようになった。ただ、長い文章を最後まで読んでもらうためには力量がいります。新聞記事にはある種の『形』がありますが、出版社系の媒体は、新聞記事で削ぎ落としたところを全部書いて面白く読める記事にしなければいけない。そのためには情報、文章ともに工夫が必要です」(Bさん)

Cさんは「とにかく企画力が重要」と語気を強める。

「新しいライターさんと仕事をする上で、その人がどういうことをやりたいのか、できるのかを知りたいので、特に最初は企画を出してほしいですね。その人は書きたいものがあるのに、こちらが原稿をいただいてから『これは掲載できない』というのは申し訳ないので、そういうミスマッチがないように、お互いのために企画を立ててほしいです。

その方が持ってきた企画がマッチしなくても、こういう企画を立てられる人だったらこっちのこの企画をお願いできそうだと展開していきますから」(Cさん)

現在、フリーランスのライターが、ウェブ媒体のライティングのみで経済的に自立することはそう容易くはない。媒体の収益構造が変わらなければ、ライターの報酬にも大きな変化は訪れないだろう。いっぽうで、マネタイズの仕組みも多様化してきた。CtoCのサービスを積極的に活用することも、選択肢のひとつだ。生き残りのためにライターが試行錯誤できる余地はまだ残っていると信じたい。

【プロフィール】高橋ユキ(ライター)。1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。

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