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片道2時間半の通勤時間、配転命令は拒否できる? 持病や親の介護、事情は考慮されるのか
画像はイメージです(ペイレスイメージズ1/PIXTA)

片道2時間半の通勤時間、配転命令は拒否できる? 持病や親の介護、事情は考慮されるのか

「片道2時間半以上かかる部署への異動を命じられたのですが、これに従わなければ退職せざるを得ないのでしょうか」という相談が弁護士ドットコムに寄せられています。

相談者の女性が異動を命じられた部署へは、乗り換え案内では1時間半で通勤できることになっていますが、実際には通勤時間帯のダイヤの関係で混雑時は2時間半以上かかってしまいます。

女性は、持病による体調不良や親の介護などの事情を説明したものの、上司から「異動を承諾しないなら退職しますか?」と言われたそうです。異動の内示を受けて以後、異動への不安などから身体症状も出ています。

異動に従わない場合は退職するしかないのでしょうか。今回の相談者はどのように対応するべきでしょうか。山田長正弁護士に聞きました。

●今回のようなケースでは「配転命令に従う必要はありません」

——会社側の命令は従う義務はあるのでしょうか

結論として、今回のようなケースでは、配転命令に従う必要はありません。

配転命令は、会社の人事権に基づく業務命令によって行われます。

配転命令の法的根拠は、労働契約にあるとされていますので、異動に関する契約書や同意書等、もしくは同内容が記載された就業規則等があれば、これが労働契約の一部となり、会社は異動についての本人の同意を得たこととなります。

その場合、内容も合理的なものであれば、会社は配転命令を出すことができ、従業員は原則、この業務命令に従う必要があります。

採用時に、職種や勤務地が限定されていた場合は、その変更を伴う配転命令について、改めて従業員の同意が必要となります。

●配転命令が無効となるケースとは?

——入社してから事情が変わり、従来と同じような働き方ができなくなることもあります。そのような場合でも、入社時の労働契約に従う義務はあるのでしょうか

前述したように、会社が配転命令を出せる旨の労働契約が成立していた場合であっても、その命令が権利濫用とされるような特段の事情があれば、当該配転命令は無効となります(民法1条3項)。

たとえば、以下のようなケースが考えられます。

(1)配転命令を出す業務上の必要性が存在しないケース
(2)不当な動機・目的があるケース.
(3)労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負うケース

——今回の事例はどのような事情から無効と言えるのでしょうか

今回は、従業員ご本人の持病による体調不良や、ご家族の介護(育児介護休業法26条参照)等の事情から片道2時間半の異動に応じられないというケースであり、上記(3)に該当する可能性が高いと考えるべきです。

この点、乗り換え案内上は1時間半で通勤できるにもかかわらず、実際は2時間半かかることの現実性・妥当性、持病や介護の具体的内容次第にもよりますが、単なる不利益を著しく超えた上記(3)の不利益に該当する可能性は十分にあります。

なお会社側としては、配転命令前に、従業員の個別事情を聴取する等の手続面での配慮も必要ですので、ご留意ください。

以上より、上記(3)の場合、会社の配転命令は権利の濫用として無効となり、従業員は配転命令に従う必要はありません。

プロフィール

山田 長正
山田 長正(やまだ ながまさ)弁護士 山田総合法律事務所
山田総合法律事務所 パートナー弁護士 企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。

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