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「名ばかり取締役」に労災認定 取締役会に全く出ず、倉庫で仕分け作業 月220時間残業で脳出血
男性側代理人の蟹江鬼太郎弁護士(左)、棗一郎弁護士(2021年4月23日、編集部撮影、厚労省記者クラブ)

「名ばかり取締役」に労災認定 取締役会に全く出ず、倉庫で仕分け作業 月220時間残業で脳出血

運送会社の取締役だった男性(60)が脳出血を発症したことについて、いわゆる「名ばかり取締役」だったとして、長時間労働が原因の労災だと認められた。最長で月220時間を超える残業があったという。

男性はこのほど、会社に安全配慮義務違反があったなどとして約7500万円の損害賠償と、労働者としての地位確認を求めて東京地裁に提訴した。4月23日、男性の代理人弁護士が発表した。

残業代の削減などのため、権限のない「名ばかり管理職」にするケースが知られているが、今回のような「名ばかり役員」も珍しくないという。

●残業時間の平均は月180時間

男性が働いていたのは、千代田運送(千葉県松戸市)。同社のウェブサイトによると、従業員数は400名いる。

男性は1988年に入社、99年に取締役として登記された。

2015年2月に脳出血を発症し、その後、取締役を退任、2016年8月で退職扱いとなった。現在も身体にしびれが残った状態だという。

労基署の調査などによると、男性が働いていた配送センターでは2014年に人手が減り、男性の負担が増加。午前6時半までに出社し、午後10時ごろまで、場合によっては日をまたいで働くこともあったという。

労基署の認定では、男性の発症前の残業時間は、6カ月平均で182時間56分、最長で月223時間47分あり、過労死ラインとされる月80時間を大きく超えるものだった。

役員扱いだったため、労働時間の記録はなかったが、妻に退勤メールを送る習慣があり、その送信時間が同僚の終業時間とほぼ一致していることが、労働時間の推計に役立ったという。

●「取締役」の労働者性が争われた

男性は2017年7月に労災を申請したが、「取締役」のため、第一ラウンドの労基署、第二ラウンドの審査請求でも「労働者ではない」として、労災は認められなかった。

しかし、第三ラウンドに当たる再審査請求をへて、2020年6月に労災が認められた。労働者性が認められた理由については、主として次のような要素が考慮されている。

(1)会社全体に係る重要な方針を決定する立場になかったこと(業務執行権を有していない)

(2)取締役会にまったく出席していないこと

(3)他の従業員とともに、食料品の入庫・仕分けなどの現業業務に主として従事していること

(4)取締役就任後も退職手続きがなく、雇用保険も払われていること(労働契約が終了していないこと)

男性の「役員報酬」は月50万円だったが、労働者性が認められたことで、残業代を加味した給付基礎日額はおよそ4万1000円という高額になった。

なお、労災の再審査で判断が覆ることはあまり多くなく、2019年度の救済件数(取消件数)は442件中29件(6.56%)。今回のような労働者性をめぐるものは、2010年度からの10年間で見ても95件中4件(4.21%)だという。

会社を提訴したのは、2021年4月22日付。取材に対し、会社側は「コメントは差し控えたい」としている。

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