コロナ禍で広がったリモートワーク。緊急事態宣言が明けても、可能な限りの継続が求められています。
ただ、企業によっては、労働者がサボっているのではないかと心配するあまり、さまざまなツールを導入しているようです。
ツイッターでは、「5分カーソルを動かさないと休憩とみなして勤務時間を減らすソフト」についてのツイート(3月10日)が5000回以上リツイートされるなど、話題を集めました。
知人の会社、在宅義務中に限り「5分カーソルを動かさないと休憩とみなして勤務時間を減らすソフトを強制インストールされる」とか言ってて「そりゃ在宅やめて普通に出勤したい人が多いに決まってる」とのことなのだが、これ企業では普通のことなの?
— 1T0T (@1T0T) March 10, 2021
実際にネットで検索してみると、確かにマウスやキーボードの操作が一定以上なかった時間をカウントするツールなどが提供されています。
もしかしたら、こうしたツールを使って、勤務時間のカウントを減らしている企業があるのかもしれません。でも、それって法的に問題ないのでしょうか。日本労働弁護団に所属する今泉義竜弁護士に聞きました。
●準備や待機も「指揮命令下」のうち
――まずは「労働時間」が何を指すのかという前提から教えてください。仕事をしていなかったら、労働時間にはならないのでしょうか?
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を言います(三菱重工業長崎造船所事件最高裁判決)。
仕事から完全に離れて私的な要件のために外出するといった場合には、指揮命令下から離れたものとして労働時間にカウントしないということにはなるでしょう。
一方、実際の作業をしていなくても、作業のための準備時間や次の作業の指示まで待機している時間などは、指揮命令下に置かれているものとして労働時間にあたります。
●トイレ休憩だって労働時間としてカウント
――5分間カーソル移動等がない場合を、労働時間でないと見なすことはできるでしょうか?
仕事の内容にもよるとは思いますが、通常デスクワークにおいては、パソコンの操作をしてなくても、資料の読み込みや頭の整理、構想を練るなど、業務に必要なことは様々あります。
業務を遂行している中で、マウスやキーボードの操作が5分間なかったということは十分生じ得ることですが、その時間も当然労働時間にカウントされるべきものです。
また、トイレに行ったり水分を補給したりといった生理的に必要な時間は当然あるわけですが、その時間についても使用者の指揮命令下を離れたものとは言えませんので、労働時間としてカウントすることになります。
パソコン操作をしない時間について、5分で一律に休憩とみなしてカウントをなくすというのは許されません。そのような管理のもとでなされた賃金カットは違法です。
●テレワークの時間管理はどうあるべき?
――テレワークの監視には批判も多い一方、「労働時間に対して給料が発生する」という仕組み上、仕方がないのだと監視を正当化するような主張もあります。この点をどう考えますか?
労働時間ではなく成果で賃金を払うようにすればテレワークにおける時間管理の問題がなくなる、という意見もあるようですが、危険な考えです。
テレワーク・在宅勤務は、私生活との境界が曖昧になり、結果として長時間労働となってしまうケースも多いようです。
実際、連合が2020年6月30日に発表したテレワークに関する調査では、約7割の方が「仕事とプライベートの時間の区別がつかなくなることがあった」と回答し、約半数が「通常の勤務よりも長時間労働になることがあった」と回答しています。
その一方、「テレワークで、残業代支払い対象の時間外・休日労働をしても申告しないことがあった」と回答した方が6割以上に上ります。
労働時間管理をせずに労働時間の規制を弱めれば、使用者は同じ賃金で労働者に対しより長時間の業務遂行を求めます。一方労働者は、求められた成果を上げるために際限なく仕事に束縛されるようになります。経済的合理性の観点のみからすればそれが必然の帰結です。
労働者の自由な時間を確保するためにも、テレワークにおいてこそ厳格な労働時間規制をかけることが必要です。
他方で、労働時間の管理は長時間労働の抑止を目的とするものですので、テレワークをする従業員について常時監視し手を止めれば労働時間と認めないなどということは先に述べたとおり許されませんし、その態様によっては労働者の人格権を侵害する不法行為にもなり得ます。この点も理解しておく必要があります。
使用者は、労働時間管理の方法について労働者や労働組合の意見を十分聴いた上で実施すべきでしょう。
なお、テレワークに関する様々な論点については、日本労働弁護団が「労働者のためのテレワーク実現に向けた意見書(2021年2月17日)」で簡潔に網羅しています。