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なぜ「ギャンブルに確実はない」のに人はだまされ続けるのか ネットで暗躍する詐欺師たち
画像はイメージです(すってぃ / PIXTA)

なぜ「ギャンブルに確実はない」のに人はだまされ続けるのか ネットで暗躍する詐欺師たち

公営競技を筆頭に、宝くじ、スポーツくじ(toto・BIG)など、公認の賭け事を悪用した“ギャンブル詐欺”が後を絶たない。

「ギャンブルに絶対はない」は金言で、誰でも分かるはずの真理だが、言葉巧みに誘導され、金銭を奪われてしまう。

過去にスポーツ紙の記者として公営競技業界にも身を置いた筆者が、ギャンブル詐欺の歴史を振り返り、詐欺の手口と実情を分析。ギャンブル詐欺被害を回避する肝は「真理」と「感性」にあり!(執筆家・山田準)

●昭和の詐欺師らが演じたコテコテの猿芝居

昨今、健全なレジャーとして大人気の公営競技だが、昭和~平成初期には客の懐を狙う詐欺師たちが暗躍していた

私事で恐縮だが、数年前に他界した実兄の遺品を整理していた際、「競艇必勝術」なる、B5サイズの怪しい小冊子が出てきて、思わず笑ってしまった。

ワープロが普及していない時代に手書きで制作されたと思われる、ホッチキスでとめただけの粗末な小冊子。ページをめくると、舟券必勝のうんちくや、買い目の乱数表などが列記されていた。

不謹慎かもしれないが、令和の今では懐かしささえ覚える、昭和のコテコテ詐欺の手口。筆者が競馬、競艇を始めた昭和50年後半ごろは、レース場の周辺に、こうしたギャンブル詐欺師たちが、当たり前のように暗躍していた。

こうした競馬や競艇の必勝小冊子は、3万円前後で売られていたと記憶している。客に紛れ込んだ「サクラ」(詐欺師の仲間)が、「この必勝術のおかげで〇〇万も儲かったよ」と声を張り上げると、別のサクラが「本当か? 俺にも売ってくれ」と、ポンと万札を差し出す。そんな猿芝居を鵜呑みにし、つい購入してしまう客が少なからずいた。

購入者がいないと、「持っていけ泥棒! 赤字覚悟の1万円だ!」と、巧みに啖呵を切って購入を促す。まるで寅さんの口上を見ているようだった(寅さんは決して詐欺師ではありませんが)。

負けた日の駅までの帰り道は「オケラ街道」と呼ばれる(noriver / PIXTA)

同様に、最終レースが終わるころには、敗者復活戦(?)に誘い込む詐欺師集団も出没した。1~6の数字を円に描いた板の上で、ルーレットのように針を手で回転させる粗末な商売道具だが、張った数字で針が止まると、6倍の配当がもらえる案配だ。

決まって勝つのは、数人の男たちだけで、今思えば「サクラ」だったに違いない。いかにして、「サクラ」の張った数字に針が止まる仕組みだったのかは分からないが……。不謹慎だが、こうした詐欺師の猿芝居は、昭和の公営競技の一種の余興だった。

余談だが、筆者も若いころ、一度だけ、詐欺師のカモになったことがある。戸田競艇の駐車場付近で、ワニ革のベルトが格安の1000円で売られていたので、つい購入すると、親切にも腹回りまで計って、ベルトをカットしてくれたのだ。

「サービスが行き届いているな」と感心していると、直後に「お兄さん、ベルトの調整料は1万円ね」と笑顔で請求され、びっくり仰天。ギャンブル場に限ったことではないが、これも昭和のコテコテの典型的な詐欺商法だった。

●昭和はレース場内でも違法・詐欺行為が横行!

競馬場のパドック(やえざくら / PIXTA)

昭和~平成初期のころ、レース場内で暗躍していたのが、「ノミ屋」、「コーチ屋」と呼ばれた違法、詐欺集団だった。

「ノミ屋」とは、主催者にとって代わり、勝手に客の投票を請け負い、当たった場合は100万円を「天井(限度額)」に払い戻し、外した場合は購入額の1割を客に「バック(還元)」する仕組みだった(天井&バックはノミ屋によって違った)。

当時は穴場(販売窓口)の女性従業員が、客が口頭で指示する投票券を打ち込み、発券する方式だったので、客が締め切りに間に合わないことも少なくなく、ノミ屋が暗躍する下地があった。

今ではすっかり姿を消したが、ノミ屋は客が席に着くなり、すっと熱いコーヒーを持ってくるなど、サービス精神旺盛だった。参考までに、ノミ行為にかかわると、利用者も競馬法やモーターボート競走法で処罰されるため、主催者は注意を喚起していた。

一方、「コーチ屋」と呼ばれる男たちは、「社長、いい情報あるよ」と言葉巧みに寄ってきて、頼みもしないのに買い目を指南した。誘いに乗って購入し、仮に当たると、満面笑みで勝利をたたえ、コーチ料を要求。予想が外れると、適当な言い訳を並べるか、姿をくらました。

中には「私が買ってきてあげますよ」と金だけ受け取り、そのままドロン(逃亡)する輩(やから)もいた。これも古き懐かしき(?)詐欺の手口と言えよう。

ちなみに、昭和~平成初期のレース場内には、1日で利息を3割も5割も取る、無登録の「高利貸し」もレース場で暗躍していた。明らかな出資法違反だが、これも昭和という時代を反映したギャンブル詐欺の一形態と言えるかもしれない。

●対面型は下火に 平成は「情報会社」による詐欺商法へ!

digi009 / PIXTA

詐欺罪は、刑法246条で10年以下の懲役と定められている。罰金刑はなく、執行猶予が付かなければ、即実刑という重い犯罪である。

昭和のギャンブル詐欺犯は、衆人監視(場内には警官も客の中に多く紛れていた)の中、体を張って詐欺を実行していた。その意味で、密室で電話やネットを駆使する平成~令和の詐欺犯たちとは大きく異なる。

昭和から平成に移行すると、競馬の情報会社が全盛を極めた。入会費や情報料を取って、電話や留守電で予想(買い目)を提供するのだが、悪徳業者も少なくなかった。

もちろん、競馬関係者や現場記者などが顔出しで、ある程度、精度の高い情報を提供する真摯な会社もあったが、一方で、情報もノウハウもない、「悪質」な情報会社も存在したのだ。

現在では、当時社会問題になった、「必ず当たる」「〇百万円達成」など、明らかに景品表示法に違反する広告こそ少なくなったが、詐欺的な情報会社は後を絶たない。

詐欺か事業かの線引きは微妙だが、少なくても「ギャンブルに絶対はない」という性質上、「必ず的中」の表記や、明らかに高額な情報料を設定する情報会社は、非難を免れないだろう。

情報提供者の素性が明確で、情報・予想料も常識の範囲内(これがまた難しいが)であることが、商売として成立する最低ラインと思われるが、その判断は利用者に委ねられているのが現実。警察や消費者センターへの苦情が殺到すると、その業者は追及を免れなくなる。

●令和は課金型の予想サイトが全盛!

のびー / PIXTA

かつて公営競技の売り上げの一部を搾取していたノミ屋がほぼ壊滅し、ネット・在宅投票が全盛となった昨今、公営競技の売り上げは軒並み上昇カーブを描いている。

2020年のJRAの売り上げは約2兆9835億円(日本中央競馬会発表)。ピークだった1997年の4兆円には及ばないが、売り上げは9年連続アップと好調だ。

モーターボート(競艇)の2020年の売り上げも、約1兆9015億円(日本モーターボート競走会発表)と好調で、JRA同様、9年連続で上昇。3兆円に手が届く勢いだった全盛期(1991年の約2兆9015億円がピーク)に迫るものがある。

昨年来のコロナ禍で、在宅やリモートワークが普及した状況も、売り上げ増の追い風になっていると予測される。そんな状況下で活況を呈しているのが、競馬、競艇を中心とした有料予想サイトの台頭だ。

予想サイト事業に参入したWEB会社代表の影山氏(仮名)は、「昨今の競馬、競艇人気から、優良で安価なコンテンツを作れば商売になると思った。もちろん、予想や情報提供は確かな方に依頼していますが、それでも絶対はないのがギャンブル。料金も含め、利用者とWin-Winの関係を築くことに重点を置いています」と話す。

そうした気構えでサイトを運営する事業者もいる一方、情報など名ばかりで、詐欺とも言える料金設定で利用者をカモにする悪質サイトも少なくない。中には、1レースの予想で数十万円という、非常識な料金設定のサイトもあるから驚きだ。

仮に高額料金に見合う精度で馬券や舟券が当たるなら、他人になど売らず、自分だけ買って儲けなさい、という話である。

●ギャンブル詐欺被害に遭わないキーワードは「真理」と「感性」

nagi / PIXTA

では、公営競技を含めたギャンブルの詐欺被害に遭わないための鍵は何か。それは「真理」と「感性」に他ならないと思う。

ギャンブルに絶対はないー。うまい話はないー。ギャンブルで確実に儲かるのは、参加費の控除額(競技、くじによって異なる)を手にする胴元だけ。これは公営競技でも、宝くじでも、totoやBIGなどのスポーツ振興くじでも変わらない。

この単純明快な「真理」を頭の片隅に置いておけば、「確実に的中します」という予想詐欺や、「当選番号を教えます」などの、当選番号詐欺に遭うことはまずない。

この「真理」は、株式や為替などの投資にもあてはまる。先日「SKE48」の元メンバーが逮捕された、バイナリーオプションという金融商品の助言詐欺も、いい例だろう。この事件では助言さえしていないようだが、仮に確実に稼げるなら、誰も他人に助言などしない。

夏夫 / PIXTA

最後に、学生時代にある教授から聞いた話で真偽は不明だが、控除率25%前後の公営競技で勝つ確率は11人中1人の狭き門だという。1人がチャラ(プラスマイナス0)、そして残る9人が負けてしまう厳しい世界だとか。

そういえば、仲間数人で公営競技に出かけ、全員で笑って帰った経験は一度もない。逆に全員が沈んで帰った苦い経験は、数えきれないほど記憶に刻まれている。

勝つのも簡単でない公営ギャンブルだが、結果はどうあれ、納得のいく勝負をしたいもの。うまい話はないという「真理」と、冷静に危険を察する「感性」は、何もギャンブルに限って必要なことではない。「真理」と「感性」を頭に、あの手この手で迫ってくる詐欺師の魔の手から身を守ってもらいたい。

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