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会えない不便を乗り切る「オンライン会議のコツ」障害者が提案 「コロナ禍のレガシーにして」
会見の様子(2021年2月2日、厚労省、弁護士ドットコムニュース)

会えない不便を乗り切る「オンライン会議のコツ」障害者が提案 「コロナ禍のレガシーにして」

視覚・聴覚障害者を対象にした、コロナ禍における生活実態調査が発表された。この1年、生活や仕事の場にオンラインでのコミュニケーションが急速に浸透した。障害者の感じるメリット・デメリットを当事者らが紹介した。

●長所短所それぞれ「7割」

報告されたのは、「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」(港区)実施の「コロナ禍でのオンラインコミュニケーションにおける聴覚障害者の課題・困難に関するアンケート」の結果だ。

調査は昨年4月、11月に続いて、3回目となる。コロナ禍で1年がたった、緊急事態宣言下の1月21日~1月25日に実施し、インターネットで111名(うち105人が会社員)が回答した。

まず、オンライン問わず、全般的に、現在の仕事・学習環境に不便や不安があると回答したのは、6割(62%)にのぼった。

個別具体的には、「マスク着用」に不便・不安があるとした人は8割(80%)にのぼる。

続いて、仕事(会議や商談)、学校(講義やゼミ)でのオンラインでのコミュニケーションにおける不便・困りごとがあるかどうか尋ねる設問では、7割以上(72%)が「不便を感じる」とした。

一方で、オンライン化にメリットを感じる(良かったことや改善されたことがあった)か尋ねる設問には、約7割(68%)が「メリットを感じる(ある)」とした。

デメリットのフリー回答の一例を紹介する。

・大人数でやると誰がしゃべっているのか読み取れない ・会議や講義で発言のタイミングがわからない
・画面を通してだと読唇もしづらく、発言のタイミングがつかみにくくて、見てるだけになる
・オンラインでマスクをしている人は声が聞き取りにくい。語尾をごまかす癖がある人は聞き取りにくい

続いて、メリットのフリー回答。

・情報が見える化になった。資料を事前につくってもらったり(原文ママ)
・チャットの活用が増えた、情報保障の意識が高まった
・音声認識「UDトーク」活用しました
・一人ひとりが話すので誰が発言しているのかわかりやすい
・電車などのリスク高いところへ行かなくてよい

●聞こえない当事者の悩み

聴覚障害者の松森果林さん(ダイアログ・イン・サイレンス アテンド)は、オンライン化で聴覚障害者は「反応がつかめない。伝わったかどうか不安。誰が話しているのかわからない。発言のタイミングがわからない」などの問題を抱えているという。

ただ、聴覚障害者といっても、難聴者から完全に聞こえない人までグラデーションがあり、ひとくくりにはできない。

「必要なサポートは一人ひとり違う。どうしたら参加しやすいのか、本人にまずは聞いて。(耳の)聞こえる聞こえないは関係ない」と呼びかけ、そのうえで、「誰も取り残さないオンライン会議」の5つのルールを提唱した。

1 手を挙げる(発言者が誰かわかる)
2 名前を言う(誰が、誰に話しているのかわかる)
3 ひとりずつ(聞き取りやすくなる)
4 反応を示す(伝わる安心感から話しやすくなる。相槌などは3割増し)
5 笑顔で! (笑顔は広がる。自発的に)

手話通訳士も参加して「誰も取り残さない会見」を目指した 手話通訳士も参加して「誰も取り残さない会見」を目指した

「コロナが収束したあとのレガシーにもなると思います。自分からあなたから始めてみませんか」と松森さんは話す。

ルールの理念をあらわすように、松森さんは「次は大胡田先生、お願いします」と名前を紹介して、マイクを譲った。

●全員不便になった世界は「良い機会」(全盲の弁護士)

今回のアンケートは聴覚障害者を対象にしたが、視覚障害者の悩みも団体には届いているという。

全盲の大胡田誠弁護士(DJS理事)によると、自分で全くできないことは「車の運転」くらいなものだという。

「視覚障害者のできないことを決めつけないでほしい。弁護士として仕事をしていますが、機械や仲間、周囲の理解があれば、できないことはほとんどないと思います。

今はみんな同じだということを意識する良い機会。体が自由か不自由でなく、みんなが制限されている。不便さはみな同じ。社会を変えることで、自由に動けるようになる」

これまでは移動して会議に参加するのが負担だったが、オンライン化によって自宅で参加できるので楽になった。便利な一方、「情(感情)を伝えるのは難しくなった」という。

視覚を使わない対面コミュニケーションで、相手の内面を探るために、声、視線、顔の向き、相槌や、匂い・香りまで参考にしていたが、オンラインでそれが困難になった。

この点を克服するため、会議に「雑談の導入」を提案する。

「冒頭3分は何気ない会話をすればいい。そこから和らげて会議に入れば、ある程度、情も伝わると思う」

●視覚障害者だって「マスクからはみ出る笑顔」がほしい

顔のパーツを大きく動かして「マスクでも伝わる笑顔」を実演する松森さん。大胡田弁護士も笑顔 顔のパーツを大きく動かして「マスクでも伝わる笑顔」を実演する松森さん。大胡田弁護士も笑顔

オンライン、対面問わず、特に聴覚障害では、マスクの着用がコミュニケーションを困難にさせている。

松森さんは「表情が見えない」「口の形を見て話の内容を判断できない」「聴力を活用している場合、マスクで声がくぐもって話が聞こえなくなる」という3つの不便な点をあげた。

「マスクを外してとは、健康を守るために言えません。しかし、マスクをしていても伝わるコミュニケーションを忘れないでほしい。表情を大切にする。アイコンタクトがとれると安心する。身振りを大きめに。マスクからはみ出る笑顔で、丁寧なコミュニケーションを楽しめるといいな」

目の見えない大胡田弁護士も「笑顔の大切さを私からもお伝えしたいです」と続ける。

「マスクしているとなかなか笑顔がすくないと思います。マスク越しでも笑顔で発せられた声には笑顔の響きがあります。マスクがあっても、あえて笑顔を作ってみる。それはマスク越しでも必ず相手に伝わるんです。自分自身も幸せな気持ちになります」

●夜間の外出は「地雷原を突っ切るようなもの」

オンラインに移行しているとはいえ、完全になんでも自宅で完結するわけではない。仕事などでどうしても外出しなければいけないことがある。

緊急事態宣言の期間が3月まで延長され、夜8時以降の外出の自粛が呼びかけられているなか、大胡田弁護士は、夜間の外出で、信号を見分けられないことで困っている。

「音が鳴って赤か青か伝えてくれる信号は全体の11%と言われています。また、夜8〜朝8時は音が鳴らなくなる。視覚障害者が1人で歩いていても、まわりに助けてくれる人がいない。無人島で船が通りかかるのを待っている心境で待っています。誰も通りかからないと、えいやっと地雷原を突っ切る気持ちです。たまたま用事で出たかたは、信号の前で困っている障害者がいないか見てほしい」

助けたいと考えた場合は、感染対策のため、正面ではなく横から声をかけてほしいとも話す。

大胡田弁護士 大胡田弁護士

●障害者は雇用不安も抱える

DJS理事の志村真介さんは「視覚・聴覚障害者のくくりではなく、一般的にもオンラインでのコミュニケーションの不便を解消すべく、聴覚障害者の知恵をいかしていこう」。

なお、今回のアンケートでは、聴覚障害者らの雇用不安も多く寄せられていた。

「事業が右下がりになると、一番最初に雇用を切られるのは障害者ではないかという不安がある。

春以降、企業のなかで聴覚障害者が働きやすくなるのか。雇用側、障害者側のアテンドスクールを計画している。どのようにコミュニケーションを円滑にすると、どちらにとっても快適になるのか計画中です」

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