弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 労働
  3. 「裸で語ろう」「チューしたくなったよ」50代上司のメッセージが苦痛…セクハラでは?
「裸で語ろう」「チューしたくなったよ」50代上司のメッセージが苦痛…セクハラでは?
写真はイメージです(Ran&Ran / PIXTA)

「裸で語ろう」「チューしたくなったよ」50代上司のメッセージが苦痛…セクハラでは?

「職場の上司から毎日のようにトークアプリからのメッセージがあり、苦痛を感じています」。弁護士ドットコムにこのような相談が寄せられています。

相談者によると、上司は50代。送られてくるメッセージは「好き」「今度2人で温泉入って裸で語り合うのもいいかもね」「今日も可愛いね。顔写真送ってほしい」「思わずチューをしたくなった」など、業務に関係のない内容だといいます。

また、トーク内ではお互い名前で呼び合うことやタメ口を強要したり、メッセージだけではなく業務外の時間に電話がかかってきたりすることもあるとのことです。

相手が上司で断りづらかったこともあり、相談者はトークに、誘いに応じたとも受け取れる好意的なスタンプを返信するなどしていました。しかし、これに気をよくした上司はエスカレートし、頻繁にメッセージを送ってくるように。相談者は徐々に苦痛を感じるようになり、意を決して上司に「今までのセクハラ発言、行動を会社に言います」と伝えました。

すると、上司は「セクハラは本人が嫌がってやめてほしいと言ったのにも関わらず、執拗に連絡をしたりすることをいうんだ。きみは嫌がる素振りを見せるどころか、私に感謝するかのようなスタンプを送ってきたのだから、これはセクハラではない」と反論してきたそうです。

今回のように、上司が好意を寄せている部下にしつこくメッセージを送ったり、電話をしたりすることは、セクハラにあたるのでしょうか。大部博之弁護士の解説をお届けします。

●「セクハラ」を受けた場合は損害賠償を請求できる?

ーーそもそも「セクハラ」とは、どのようなことをいうのでしょうか。

セクハラを定義づけようとするならば、「相手の意に反する性的言動」ということになります。この定義からすると、相手が欲しない、性的なニュアンスを伴った言動であれば、セクハラに該当することになります。

ーーセクハラを受けた場合は損害賠償を請求できるのでしょうか。

セクハラによって傷ついた方からすれば、相手に損害賠償を請求したいという気になるかもしれません。しかし、セクハラにあたるからといって、必ずしも相手に損害賠償請求できるとは限りません。

損害賠償が認められるためには、セクハラ行為が、相手の人格権を侵害するものとして違法と判断されなければなりません。

違法かどうかの判断は、その言動、行動の内容や、行為者と被害者の関係などから総合的に検討して、社会的に不相当とされる程度かどうかが問題です。基準としてはやや不明確なため、これを感覚的に理解しようとするならば、「常識からみた程度問題」と置き換えることもできるかもしれません(もっとも、人によってアウトとセーフの感覚は異なるとは思いますが)。

したがって、性的な言動ではあっても、相手の人格権を侵害していると評価できるレベルでなければ、損害賠償を請求するのは難しいでしょう。

ただ、損害賠償が無理でも、セクハラ行為に厳しい対応で臨んでいる会社であれば、加害者に対して、懲戒処分がなされる場合はありえます。

●「拒絶の意思」を示すことは必要?

ーー具体的に、どのような場合に上司に対して損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

部下である相談者が拒絶の意思を示しているにもかかわらず、上司が執拗にメッセージを送り続けるなどの行為があったとすると、部下に与える心理的な負担も大きく、違法となる可能性が高くなり、損害賠償請求が認められると思います。

ーー相談者は相手が上司ということもあり、明確に拒絶の意思を示さずにメッセージに返信するなどしていたようです。

明示的に拒絶の意思を示していなければならないかというと、必ずしもそうではありません。上司と部下という関係では、今回のケースのように、必ずしも拒絶の意思を示すことができないという場合も多いため、このような関係性も総合的な判断の対象となります。

そこで、上司と部下という関係においては、少なくとも女性の方から積極的に誘うなど、拒絶の意思を表示していないことが明らかな場合を除いては、告白行為やデートに誘う行為、または交際を求める行為が執拗になされる限り、仮に、はっきりと拒絶の意思を示さずに、儀礼的な返答をしていたとしても、人格権侵害とされる可能性が高く、被害者からの損害賠償請求が認められる余地が充分にあると考えてよいと思います。

(弁護士ドットコムライフ)

プロフィール

大部 博之
大部 博之(おおべ ひろゆき)弁護士 小笠原六川国際総合法律事務所
2006年弁護士登録。東京大学法学部卒。成城大学法学部講師。主に企業法務、訴訟を扱う。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする