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生活保護申請ためらう「扶養照会」見直し求め要望書 家族に知られ、縁が切れた受給者も
一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さん(右)と小久保弁護士(東京都、2021年2月8日、弁護士ドットコム撮影)

生活保護申請ためらう「扶養照会」見直し求め要望書 家族に知られ、縁が切れた受給者も

生活保護を申請した人の親族に援助できるかどうか問い合わせをおこなう「扶養照会」が申請のハードルになっているとして、支援団体が2月8日、運用の変更を求める要望書とネット署名約3万5800筆を厚生労働省に提出した。

要望書とネット署名を手渡した(弁護士ドットコム撮影) 要望書とネット署名を手渡した(弁護士ドットコム撮影)

2017年の厚労省調査によると、保護申請時におこなった扶養照会46万件(年換算)のうち、金銭的な扶養が行われることになった保護開始世帯の割合は1.45%にとどまった。

厚労省は「明らかに扶養義務の履行が期待できない場合」には扶養照会をしなくてもよいと通知しているが、実際の援助につながる事例はまれ。支援団体は「申請者が事前に承諾し、かつ、明らかに扶養義務の履行が期待できる場合」に限り扶養照会をするよう求めている。

●「25年会っていない父親に扶養照会をされた」

生活困窮者を支援する一般社団法人「つくろい東京ファンド」は2020年12月31日~2021年1月3日、生活困窮者向け相談会の参加者を対象に、アンケート調査をおこなった。

生活保護を利用したことがない人に「生活保護を利用していない理由」を尋ねたところ、「家族に知られるのが嫌」が34.9%ともっとも多かった。

画像:つくろい東京ファンド 画像:つくろい東京ファンド

また、2021年1月27日から2月6日まで、Google フォームで扶養照会に関する体験談を募集したところ、受給者から「25年会っていない父親に扶養照会をされた」、「妹が激怒し揉めて、親兄弟との縁がほとんど切れてしまった」といった声が寄せられた。

厚労省は、DVや虐待があった場合は問い合わせをおこなわないよう通知をしているが、中には「扶養照会により、DV加害者の父親に居場所がバレてしまい家に何度も押しかけられた」「DVで離婚した元夫に扶養照会が送られ住居がバレた」といった声もあった。

●扶養照会で家族関係壊れ

「つくろい東京ファンド」の小林美穂子さんは、生活保護申請の支援をする中で、親からの暴力により児童養護施設で育ったケースや扶養義務者が90歳を超えている場合でも、扶養照会がおこなわれる事例をみてきたという。

「相談者は『扶養照会されてしまうのではないか』とハラハラしている。扶養照会で家族の関係性が壊れたとか罵倒されたとか、不幸な結果になっている人もいる」(小林さん)

生活保護問題対策全国会議の田川英信事務局次長によると、厚労省の担当者は「不適切な事例については至急改めるように方策をとりたい」と回答したという。

田川英信事務局次長(弁護士ドットコム撮影) 田川英信事務局次長(弁護士ドットコム撮影)

田川さんは「家がなく所持金は数百円という人でも、『生活保護は扶養照会があるから嫌』『イメージが悪い』と申請しない人がたくさんいる。こうした状況を絶対に変えていかなければならない」と訴えた。

同会議の小久保哲郎弁護士は「生活保護の場面だけは、本人の意思に関わらず、福祉事務所が照会をかけるという歪んだ運用だ。扶養の期待が高く、本人の承諾がある場合のみ、直接扶養照会すべきだ」と話した。

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