お盆真っ只中の8月14日から始まった東北道・佐野サービスエリア(SA・上り)の「ストライキ」。関連会社や日雇いのスタッフが入って16日から営業は再開しているものの、運営会社「ケイセイ・フーズ」の従業員のうち79人は、未だストを続けている。
一方、ケイセイ・フーズ労働組合の執行委員長のもとには、違法なストであるとして、会社側から賠償請求をほのめかす書面が届いている(8月19日付)。
損害は「1日当たり少なくとも800万円を下らない」として、損害額が確定次第「しかるべき法的手段を講じます」としている。
これに対し、ストが始まってから代理人になった同組合の弁護団は「正当なストライキで賠償責任はない」と主張している。根拠を聞いた。
●組合側「労働組合による正当なスト」
ケイセイ・フーズの労働組合は7月15日に結成されている。
従業員が独学でつくったものだが、適切な方法で役員を選任しており、直接無記名投票で組合員の過半数の支持を得ないと同盟罷業(スト)を開始しないことを明記する(労組法5条2項8号)など、規約も整備されているという。
そうだとすれば、組合の適格性には問題がないようだ。ストは労働組合の権利として認められている。
組合は7月20日、会社側と初めて団体交渉し、経営状況のことも話題になった。このとき、会社側は銀行からの新規融資が凍結されたことを認めたそうだ。
資金繰り悪化の話は取引業者にも広まっており、この頃から商品が納入されず、佐野SAの利用者からクレームが入るようになったという。
佐野SAスト騒動の時系列
そこで元総務部長の加藤正樹氏(45)の提案により、商品の代金を前倒しで払うという覚書に社長がサインし、取引業者に安心してもらおうということになった。これが8月5日のことだ。
ところが、8月9日になって社長が覚書は守れないと翻意。社長との溝が広がり、加藤氏は8月13日に解雇された。同日、組合のA委員長も出勤しないように通告された。ストはこうした2人に対する扱いを受けて発生したものだ。
組合には従業員の大半を占める79人が加入しており、その全員がストに参加している。組合員の過半数の賛成があることから、適法なストだというのが組合側の主張だ。なお、労働委員会に「争議発生届」も出している。
組合側はストを通して、加藤氏やA委員長の復職などを求めている。なお、加藤氏は元々、組合員ではなかったが、解雇後に加入した。一方、会社側は8月15日の記者会見で解雇を撤回すると発言している。
●そもそも憲法上の権利でもある
今回、スト決行に際して、規約で定められた全組合員の投票があったわけではない。緊急性が高かったためだ。
だが、仮にこの点をもって、労働組合法上の免責が受けられなかったとしても、憲法上の免責があると組合側は主張している。
憲法28条
憲法28条は、団体行動権(争議権)などの主体を労働組合に限定していない。たとえば、外国人技能実習生が訴えられた「三和サービス事件」では、労働組合ではないが、憲法上の保障を受けるとして、ストは正当なものとされた(津地裁四日市支部平成21年3月18日判決、高裁も維持)。
組合の主張をまとめると、(1)ストは労組法上、正当である、(2)仮に労組法上のストとして認められない場合でも、8月14日は「憲法で保障された争議」として免責される。翌15日にはスト参加者の意思を確認しており、労組法上のストに移行しているーーということになる。
労組法に照らして正当なストに対して、会社が損害賠償を請求してくるのは、不当労働行為に当たるというのが組合側のスタンスだ。
●「解雇についての団交なし」「事前通告なし」への反論
一方、会社側は加藤氏らの解雇についての団交がないことから、ストは違法だとしている。
この点について組合側は、7月20日に団交を持ったが、その後、会社側との信頼関係が崩れ、これ以上話し合いをしても仕方がない状況になっていたと反論する。
そもそもスト前にその要求についての団交が必要なのかというと、法規定や明確な判例はなく、学説も分かれているという。
ストについて事前通告がなかったことも指摘されているが、組合の「争議戦術」のうちだとして、通告なしでも適法とされた裁判例は複数存在する。
ストは一般的に労働組合が団交を重ねた上で決行する。事前通告して交渉カードにすることも多い。ただし、それ以外の方法が違法ということではない。そこは個別具体的な事情による。
●スト開始から2週間、従業員たちは毎日話し合い
スト決行からすでに2週間が経過している。従業員たちは毎日、公共施設に集まって、今後の方針を話し合っているという。まだ離脱者は出ていない。スト中の給与は出ないため、加藤氏が組合の闘争資金として、1500万円を用意しているという。
「ここまで長いストは珍しく、調べる裁判例も50年以上前のものが多い。それだけ、加藤さんやA委員長が信頼されているということでしょう。裏返せば、会社への不信感が強いということでもあります」と弁護団のひとりは話す。
現在、佐野SAは別の従業員によって運営が続けられている。ネット上では「スト破り」との声もある。
「ストをしているスタッフを引き抜いているわけではないので、組合として問題視はしていません。ただ、団体交渉の日程を延ばすなど、営業を優先して労働者と向き合わない姿勢には疑問を感じています。組合としても、SA利用者のためにも早期に解決したいと考えています」
組合と会社の団体交渉は8月30日に予定されている。