勤務時間外や休日に、労働者は仕事上のメールなどのやりとりをしないーー。そんな環境を目指し、フランスで法改正の議論が続いている。
ニューヨーカーやワシントン・ポストなどの報道によると、議論の対象は、フランスで下院を通過し、上院で審議されている労働法制の改正案。法案では、従業員50人以上の企業で、雇用主や従業員が、勤務時間外に電子メールなどのデジタルコミュニケーションを制限する方法について協議し、やり方を定めることなどを求めている。海外メディアは「つながらない権利(The right to disconnect)」などと報じている。
日本でも、勤務時間外に上司や取引先から届くメールやLINEメッセージにストレスを感じる人も少なくないだろう。日本では、勤務時間外にメールなどの送ることは法的にどんな問題があるのか。労働問題に詳しい今泉義竜弁護士に聞いた。
●勤務時間外でも、リアルタイムで確認を求めたら「業務時間」
「従業員が勤務時間内に読むことを前提としたものであれば、勤務時間外に上司がメールを部下に送信すること自体は、法的に問題はありません。
しかし、とりわけ個人の携帯メールやLINEなどで、勤務時間外に対応を求めるような内容のメッセージを送ったり、リアルタイムでの確認・返信を求めるような場合には問題が生じます」
今泉弁護士はこのように述べる。どんな問題だろうか。
「『労働時間』とは、『労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間』を意味します。
勤務時間外においても、メールなどを通じて上司が部下に対し指示を出したり命令したりして業務を行わせれば、それは勤務時間外の『労働時間』となります。
本来、労働者はそのような時間外労働の業務指示に従う義務はありませんが、やむを得ず従った場合には、使用者はその時間外労働に見合った残業代を支払う義務があります。
ただ、上司の命令の対応に対し、自宅などでどれだけの時間を費やしたとしても、その分に見合う残業代がきちんと支払われることは、現実にはほとんどないでしょう」
●長時間労働、不払い残業の温床になる
「上司がメールやラインで時間外に業務指示をすることは、際限のない長時間労働・不払い残業という違法状態の温床になります。
また、部下が時間外のメールやLINEへの確認・返信をしなかったことを理由に上司がその部下の人事評価を下げるなどということもあるのかもしれませんが、これは人事権を濫用するもので違法と言えるでしょう。
このように、時間外のメールやラインでの業務指示は、違法状態を生じさせるおそれが強いものです。長時間労働や自宅持ち帰り残業が横行する日本においても、フランスのような「つながらない権利」という考え方は大いに参考にすべきでしょう。
このような権利を保障し、自由な生活時間を確保していくためには、労働時間の上限規制を厳格に定める方向での労働基準法の改正とともに、時間外のメールやラインを規制する労使間の取り決めや行政による指導などの社会的な規制を進めていくことが必要だと思います」
今泉弁護士はこのように述べていた。