東京の大手タクシー会社・国際自動車に勤務する運転手14人が、給料から残業代にあたる金額が差し引かれているのは不当だとして「未払賃金」の支払いを求めた裁判で、東京地裁は1月28日、国際自動車に計1457万円の支払いを命じる判決を下した。
判決後の記者会見で、原告代理人の指宿昭一弁護士は「国際自動車は、タクシー業界の中でも非常に大手。そのような会社に対して、残業代ゼロを無効とする画期的な判決が東京地裁から出たことは、同業他社に大きな影響を与えるだろう」と、判決の意義を語った。
●給料から残業代を差し引くのは「公序良俗違反」
原告の運転手たちは2012年5月、毎月の給料から残業代(時間外手当・深夜手当・休日手当)や通勤費に相当する金額が引かれているのは労働基準法に違反するとして、国際自動車を相手取って、東京地裁に提訴した。
同社の賃金規則では、運転手に、基本給のほかにタクシーの売上に応じた「歩合給」が支払われることになっていた。しかし、その歩合給から残業代や通勤費に相当する金額を差し引くという規定があり、実質的に残業代が支払われない状態になっていた。
この規定について、国際自動車は「時間外労働をすれば売上が上がって賃金総額も増加するから、労働基準法の趣旨に反するとはいえない」「同様の賃金制度はタクシー業界で一般的に採用されている」などと主張した。
しかし、東京地裁の佐々木宗啓裁判長は「売上が同じ場合、残業をした運転手とそうでない運転手の賃金が全く同じになる」と指摘。歩合給から残業代に相当する金額を差し引くという規定は「(残業代の支払いを使用者に義務づけた)労働基準法37条の趣旨に反し、公序良俗に反して無効」と判断した。
そして、原告14人に本来支払われるべきだった「残業代」に相当する計1457万円の支払いを、国際自動車に命じた。ただ、原告がほかに求めていた通勤費相当額の請求は認めなかった。
●「タクシー業界に大きな影響を与えるだろう」
判決後に厚労省で開かれた記者会見で、指宿弁護士は次のように語った。
「形の上では残業代を支払っていると見せかけながら、実際には支払っておらず、いくら働いても実質的に賃金が変わらない歩合制は、タクシー業界で広く行われている。
業界の慣行に対して、裁判所が今回、明確に『公序良俗違反』と言ってくれた点については、敬意を表したい。裁判所がダメと判断したことで、同じような賃金体系をとっていた会社は、給与の支払い方を変えざるを得なくなる。業界に大きな影響を与えるだろう」
一方、国際自動車は「賃金規則における歩合給の計算方法が一部無効とされた点に不服があるので、本日、控訴した」というコメントを発表した。
【追記】初出時、原告が語った内容として記載していた部分は、原告の発言ではありませんでした。発言部分を削除して訂正いたします。関係者ならびに読者のみなさまにお詫び申し上げます。(1月29日12時30分)