東京電力は11月下旬、福島原発で働く作業員の約3割が「賃金を支払う会社と、実際に作業を指示する会社が違う」と答えたというアンケート結果を発表した。
東電によると、「現場であなたに作業を指示している会社と、あなたに給料を支給している会社は同じですか」という質問に対して、「違う」と回答した人が、対象者2684人のうち28.3%に及んだという。
下請け会社の従業員が、仕事の発注元から直接指示を受ける形で働くことは「偽装請負」と呼ばれる。今回のアンケート結果からは、そういった状況が発生している疑いが読み取れる。偽装請負にはそもそも、どんな問題があるのだろうか。労働問題にくわしい靱純也弁護士に聞いた。
●雇用責任があいまいに
「『偽装請負』とは、形式的には請負契約を結んでいるのに、実質的にみると派遣や雇用となっている状態をいいます。
請負契約の本質は、業務を請け負った人が、発注者から独立した形で、それを遂行する点にあります。
発注者が直接指揮監督する場合は『請負』とはいえず、実質的には『派遣』や『雇用』です」
何が悪いのだろうか?
「人を雇えば、さまざまな責任が発生します。『偽装請負』は、そういった責任を回避するために行われます。
雇用責任の所在があいまいになるため、労働者が劣悪な労働環境や違法な長時間労働を強いられやすくなります。また、不当な中間搾取にもなりかねません。さらに、労災隠し等も行われやすいといわれています」
●規制・負担をかいくぐろうとしている
実態にあわせて「派遣」にする、というわけにはいかないのだろうか。
「派遣労働は、労働者派遣法等に基づいて、たとえば次のような規制がかかります。
(1)建設業務など一定の業務は行えない
(2)一部の業種を除き派遣期間に上限がある
(3)派遣先に直接雇用の申出義務が生じる場合がある
(4)派遣元は厚生労働大臣の許可または届出が必要
また、直接雇用した場合、使用者側には、解雇や労働時間の制限などの労働法上の規制のほか、社会保険料などの負担も生じます。
『偽装請負』は、請負契約の形式をとることで、こうした派遣や雇用にともなう規制や負担をかいくぐろうとしているわけです」
靱弁護士はこのように説明していた。