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「遠隔地への配転でうつになった」あんしん財団のアラフォー女性職員らが「労働審判」
職員たちは、厚労省で記者会見を開いた

「遠隔地への配転でうつになった」あんしん財団のアラフォー女性職員らが「労働審判」

中小企業向けに保険業務をしている一般財団法人あんしん財団(東京)で「退職強要を目的とした、不合理な人事異動が行われた」として、30代〜50代の男女職員9人が8月18日、東京・霞が関の厚労省で記者会見を開いた。9人は13日に慰謝料などを求める労働審判を申し立てており、うち5人はうつ病など精神疾患になったとして、集団で労災も申請しているという。

あんしん財団は、かつて「ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団」を名乗っていた2000年、中央政界を巻き込む汚職問題「KSD事件」を起こしたことで知られる。現在は、全国に会員数は18万以上、被保険者は50万人以上で、全国で300人の職員がいる。

●アラフォーの女性事務職員に「外回り営業」を命令

会見での説明などによると、事件の発端は、それまで内勤の事務仕事をしていた40歳前後の女性職員28人に対して、「地回りの営業をしろ」という職務転換命令が、2012年以降に次々とくだされたことだった。背景には、給与が高い正規の女性事務職員を、派遣に置き換えようという狙いがあったという。

営業の仕事内容は、中小企業の社長を相手に、飛び込みやテレアポなど、「白地からの地べたを這いずり回るような営業」だった。

女性職員たちの多くは新卒で採用され、20年近く事務仕事をしてきており、外勤営業をやったことがなく、十分なトレーニングを受けるチャンスもなかったという。内勤から外勤営業職への配置転換命令を2013年に受けた30代後半の女性は、同じ立場に置かれた同僚たちと「辞めろってことだね」とため息をついたそうだ。

●成績が悪いと「遠隔地」へ

営業職に移らず即退職したのは28人中6人だけだったが、さらに追い打ちがかかった。そのうち営業成績が悪かった9人に、2015年4月1日付けで「遠隔地への転勤」が命じられたのだ。

転勤場所の内訳をみると、埼玉→北海道、北海道→埼玉、新潟→東京、宮城→金沢、栃木→熊本、栃木→鹿児島、東京→新潟、東京→宮城、神奈川→石川となっている。北海道と埼玉は人員の「交換」だった。

代理人の嶋崎量弁護士は「生まれ育った地元から離れ、遠隔地に異動させても、営業成績が上がるわけがない。企業にとってもプラスになるとは思えず、異動の合理性を説明できない。営業成績が悪いと給料を下げられる。これでは退職強要とされてもしかたがない」と批判した。

女性職員9人は結局、5人が退職し、残り4人が体調を崩して休職した。結局のところ8月13日現在では、28人中14人が退職、4人が休職し、勤務しているのは10人にすぎないという。

●反対した男性たちも「遠隔地」へ

一方、男性たちは、こうした女性職員の人事に反対したことがきっかけで、降格・配転を受けたという。営業開発部長Y氏が、女性職員の人事に反対したところ、営業開発部自体が4月1日で廃止。Y氏は他の部付の実質降格となった。

Y氏はさらに「休職するように女性職員を誘導した」とされ、4月17日付けで「懲戒解雇を前提とした無給の自宅待機」を命じられた。その後、Y氏の自宅待機は解除されたが、以降3カ月間、人事部付として仕事を与えられないまま「さらし者にされている」という。

さらに、Y氏に近いとみられた男性職員4人にも、遠隔地への転勤が命じられた。4人は全員が東京・新宿勤務だったが、それぞれ熊本と鹿児島、札幌と旭川に配転されたという。

このうち熊本に配転された男性は、内示を受けた後の3月下旬に、心因性の狭心症を発症。男性は「発作は、胸が圧迫されて潰れそうな、どうしようもない痛みが冷や汗をともなって起きる。単身赴任で救急車を呼べるだろうか、玄関のカギを開けられるだろうかと考えると、恐怖に見舞われた。不安障害になって、自宅療養することになってしまった」と語った。

代理人の鵜飼良昭弁護士は「あんしん財団は認可特定保険業者だ。ケガ補償や労災防止などのサービスを提供している法人が、こんなことで良いのだろうか」と訴えた。労働審判の結論は11月ごろに出る見通しだと話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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