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多発する外国人技能実習生の「労災事故」行きすぎたコストカット追求が影響?
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多発する外国人技能実習生の「労災事故」行きすぎたコストカット追求が影響?

日本で働きながら技能を学ぶ「外国人技能実習生」の労災事故が2013年度に初めて1000人を超え、1109人に達したことが、7月13日付の朝日新聞で報じられた。実習生の受け入れ団体や企業を指導する国際研修協力機構(JITCO)のまとめでわかったという。

長時間残業による実習生の過労死も起きている。2010年には、茨城県のめっき加工会社に勤めていた31歳の中国人男性が死亡したケースについて、労働基準監督署が過労死だったと認定している。労災事故にあった人数は、東海3県が上位を占めている。

外国人技能実習制度は、日本の技術を学んでもらうことを目的に外国人を受け入れる制度で1993年に導入された。農業や漁業など、71の職種が対象で、上限は3年。年間約17万人が働いているが、労働環境が劣悪だといった批判が根強くある。こうした現状を、労災問題に取り組む弁護士はどうみているのか。古川拓弁護士に聞いた。

●深刻な労災事故や過労死が発生している

「外国人技能実習制度(以下「実習制度」といいます)では、パスポートの取上げや最低賃金法違反、権利を主張したら強制帰国させる、などといった問題が指摘されてきました。こうした問題と並んで、実習生の労災事故の問題も深刻です」

古川弁護士はこのように述べる。問題の背景には、どういった事情があるのだろうか。

「そもそも事業主や企業が実習制度を利用する動機として、『所得の国際格差を利用してコストカットしよう』という点が挙げられます。

発展途上国から来る実習生にとって、日本の賃金水準は自国と比べて高いので、日本人から見れば低賃金でも、実習生は喜んで働きます。

日本の事業主や企業から見れば、低い賃金水準・厳しい労働環境でも働き手を見つけやすいため、その点をうまく利用してコストカットを図ろうということです。

しかし、中には、コストカットを追求するあまり、実習生の安全や健康に対する配慮を怠って働かせる事業主や企業が残念ながらいます。その中で、深刻な労災事故や過労死等が発生しているケースが少なくありません」

古川弁護士は、実習生側が日本の労働法制度を理解していないことも背景にあると指摘する。

「実習生は、日本語や日本の制度に十分に慣れないままに働きはじめる場合が多く、自分たちを保護してくれる労働時間や作業環境に関する労働関係法令、あるいは労災保険の制度を十分に理解していません。もしくは、知っていても、言葉の壁などで、具体的な活用や権利の主張ができずに働いているケースが多々あると思われます。

そういったことが、事業主や企業の労働関係法令違反や労災事故が多発する温床となっていると言えるでしょう。しかし、当然の話ですが、実習生であっても、日本で働く以上、労働者であることには変わりありません」

●「日本人の労働者を使用する場合と変わらない姿勢を」

労災事故について、事業主や企業は、どんな責任を負う必要があるだろうか。

「事業主や企業は、労働関係法令をまもって実習生の生命・健康・安全に配慮して使用する義務を負っています。この義務に違反して労災事故を発生させ、実習生の生命や健康を損なった場合には、実習生に対する損害賠償責任を負うことになります。

また、法令違反に対する刑事罰のリスクもあります。実習生の労災事故が多数発生し、これに対する世論やマスコミの注目度が上がっています。これまで以上に、救済を求める実習生に対する支援の輪も広がっていくことが考えられます。

事業主・企業としては、損害賠償責任や刑事罰を負うリスクだけでなく、報道等によって企業の名前が世間に知れ渡り、評判が決定的に損なわれるリスクも出てきます」

どのような姿勢が求められるのだろうか。

「日本人の労働者を使用する場合と変わらない姿勢で、関係法令をまもり、実習生の生命・健康・安全に十分に配慮しながら使用することが、企業のリスクヘッジとしても重要だと考えられます」

古川弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

古川 拓
古川 拓(ふるかわ たく)弁護士 弁護士法人古川・片田総合法律事務所
弁護士法人古川・片田総合法律事務所 代表。2004年弁護士登録。京都弁護士会・過労死弁護団全国連絡会議 所属。特に過労死・過労自殺・労災事故などの労災請求・損害賠償請求事件に力を入れ、全国からの相談に応じている。著書に「労災事件救済の手引 - 労災保険・損害賠償請求の実務 -」(単著),「働く人のためのブラック企業被害対策Q&A: 知っておきたい66の法律知識」(共著)など。

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