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中国で流行の「過労肥」 仕事のしすぎで太ったら、労災申請できる?

中国で流行の「過労肥」 仕事のしすぎで太ったら、労災申請できる?

近年の経済成長に伴って、人々の生活習慣が激変した中国。都市部を中心に食生活などが豊かになった一方で、肥満が深刻化しているという。その原因の一つには、仕事をやり過ぎる「過労」があるようだ。報道によると、過労やストレス、不規則な生活により体重が増えることを意味する「過労肥」という言葉も登場しているという。

厚生労働省のサイトによると、日本でも肥満が増えているが、その大きな原因の一つは運動不足だと考えられているという。デスクワークなど、身体をあまり動かさない仕事を長時間続けた上で、残業をしていては、運動する時間がないのも無理もないことなのかもしれない。

また、仕事のために「脳を活性化する」と言いながら甘いものに手が伸びてしまったり、職場のストレスを発散するために暴飲暴食に走るビジネスパーソンも少なくない。では、仕事による「過労」が原因で太ったり、生活習慣病になったら、労災(労働者災害補償保険)を申請できるのだろうか。中村憲昭弁護士に聞いた。

●過労が原因で太っても、労災の認定はされない

いわゆる労災とは、国が運営する公的保険で、労働者は必ず加入することになっている。どういう場合にお金が給付されるのか。「労災補償保険法における保険給付とは、労働者の業務上の疾病、障害、死亡などに関する給付です。保険給付の内容も、療養補償、休業補償、遺族補償などです」と中村弁護士は説明する。

では、過労で太った場合に、「業務上の疾病」にあたるとして、労災をもらうことはできるのだろうか。

「体重が増えただけでは、そもそも疾病とは言えませんし、肥満で療養が必要だとしても、業務に起因するものとは通常認められません。したがって、労災の申請そのものは可能ですが、日本においては認定されないでしょう」

●「裁判で争うよりも、ダイエットの方が手っ取り早い」

中村弁護士によると、過労で太ったとしても、労災は認定されにくいようだ。では、労働者が働き過ぎて、生活習慣病になった結果、重度な疾病も併発したケースはどうだろうか。労災が認められなくても、会社に損害賠償を請求できないのだろうか。

「因果関係の立証は事実上困難でしょう。まず、疾病の原因が肥満であることを立証する必要があります。これが立証できたとしても、肥満が過労によるものなのか、単なる食べ過ぎなのかは立証が困難です。さらに、その過労が過重な業務負担によるものなのか否かも、立証しなければなりません」

つまり、損害賠償を請求するには、疾病と過労の因果関係を立証しなければならず、過労で太ったかどうかの証明が難しいということだ。さらに中村弁護士は日本人の国民性にも言及する。

「中国では『過労肥』という言葉が流行っているが、日本は『自己責任』という言葉が大好きな国民性ですから、肥満を会社のせいにすることには抵抗があると思います」

最後に、中村弁護士は次のように指摘した。

「もっとも、法律解釈は社会通念に左右されます。過労による自殺も、昔は業務災害とは認められていませんでしたが、近年では過労死と認定されるようになりつつあります。肥満の人が粘り強く裁判を闘えば変わるかも知れませんが、ダイエットの方が手っ取り早いかもしれませんね(笑)」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

中村 憲昭
中村 憲昭(なかむら のりあき)弁護士 中村憲昭法律事務所
離婚・相続、交通事故など個人事件と、組織が万全でない中小企業を対象に活動する弁護士。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。その他医療訴訟や建築紛争など専門的知識を要する分野も積極的に扱う。

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