営業など、外部の人と会うことを仕事としていれば、受け取った名刺をどう管理するか、悩んだことが一度はあるだろう。最近では、昔ながらの名刺ホルダーやファイルに加えて、スマートフォンアプリなどで管理している人もいるようだ。
そうやって取引先などからもらった名刺には、個人名や会社名、電話番号、メールアドレスなどが記されている。こうした情報は、個人情報や顧客情報ということもできそうだ。
個人情報や顧客情報については、その管理が問われるニュースがさかんに報じられている。自分が仕事でもらった名刺は、どう扱うべきなのだろうか。たとえば転職した人は、以前の会社にいたときに手に入れた名刺を自由に使って、仕事をしても良いのだろうか。企業法務にくわしい佐久間篤夫弁護士に聞いた。
●名刺の「所有権」と「情報」をわける
「仕事で手に入れた名刺を退職時に持ち出して、転職先などで使ってよいかについては、
(1)手に入れた名刺の『所有権』
(2)名刺に印刷された『情報』
この2つにわけて考える必要があります」
佐久間弁護士はこう切り出した。どう考えればよいのだろうか。
「まず、仕事で取引先などから受け取った名刺は通常、受け取った従業員に『所有権』が帰属すると考えられます。その場合、従業員による名刺の持ち出し行為自体には問題がないといえるでしょう」
紙の名刺そのものは、個人の持ち物ということになるようだ。
●名刺の情報が「営業秘密」とされる場合も
「ただし、名刺に印刷された『情報』を自由に使って良いかどうかは別の話です。名刺に印刷された『情報』が次の3つの要件を満たせば、不正競争防止法が定める『営業秘密』にあたる可能性があります。
(a)事業活動に有用な情報であること(有用性)
(b)公然と知られていないこと(非公知性)
(c)秘密として管理されていること(秘密管理性)
『営業秘密』を転職先の会社で使ったりすると、不正競争防止法違反として転職先の会社とも使用差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります」
逆にいうと、「営業秘密」にならなければ、OKということだろうか?
「たとえ『営業秘密』といえなくとも、会社が管理する秘密情報と言えれば、従業員は労働契約に付随する『守秘義務』を負います。
この『守秘義務』は、退職後も一定の範囲で認められる余地があり、もし違反したことがわかると、会社から損害賠償を求められる可能性があります。
したがって、前職の仕事の関係で手に入れた名刺に印刷された『情報』は転職後に全く自由に使ってよいとはいえません」
佐久間弁護士はこのように説明したうえで、「退職後に、前の勤務先から『守秘義務違反』を疑われないためには、仕事で手に入れた名刺の情報を転職先での営業活動などに積極的に使うことは避けたほうがよいでしょう」とアドバイスしていた。