ブラック企業――。もはや、現代日本を読み解くキーワードの一つと言ってもよいだろう。もともとは、ネットスラングとして使われはじめた言葉だ。はっきりした定義はないが、たとえば低賃金など劣悪な環境下で長時間労働を強制したり、限度を過ぎたノルマを求めて、労働者を使い捨てにするような企業のことをさす。
こうした「ブラック企業」が問題となるなか、「ブラック企業被害対策弁護団」が7月31日、結成された。弁護団には、労働者側で労働問題を手がけた経験を持ち、昨今の若者の雇用状況を危惧する約50人の弁護士が集まった。今後、どのような活動を行っていくのか、弁護団代表の佐々木亮弁護士に話を聞いた。
●『ブラック企業』に焦点を絞った弁護団
――「ブラック企業」の被害対策ということだが、どのような活動をしていくのか?
「『ブラック企業』という言葉が広く使われることによって、自分の労働環境に疑問を持ったり、権利意識が芽生えるケースが増えてきたと思います。まずは、そうした声をしっかりと汲み上げて、労働事件を掘り起こします。また、集まった情報は弁護団で共有して、ケースごとの対応策を検討・研究します。
こうしたことを積み重ねていくことで、ブラック企業に勤める労働者の権利の実現につなげていきたいと考えています」
――似たような団体として、すでに「日本労働弁護団」がある。それとの違いは?
「労働弁護団は、労働問題全体を対象としています。また、その時々の労働政策について意見や政策提言を行う歴史と伝統を持った団体でもあります。それに対して、当弁護団は、『ブラック企業』というキーワードをきっかけとした労働問題に焦点を絞っています。たとえるなら、公害や消費者被害などの被害対策弁護団と似たイメージです」
――「ブラック企業」とは、どのような企業のことを想定しているのか?
「『ブラック企業』は、ネットスラングから発生した言葉です。ある定義があって、それ以外は違う、という類のものではないと思います。当弁護団では、狭義と広義でふたつ定義しました。
狭義では、若者中心に被害が広がっていることもあり、『新興産業において、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業』。一方、広義は『違法な労働を強い、労働者の心身を危険にさらす企業』としています」
――具体的にはどのような例があるのか?
「やはり、長時間労働が典型例でしょう。法的な観点から言うと、長時間労働が体調不良をもたらした場合は、企業側の安全配慮義務違反、それがサービス残業なら残業代未払いが問題となります。ほかにも、違法な解雇や退職強要、労働者への理不尽な損害賠償請求、退職妨害なども法的紛争となり得ます」
●弁護士だからこそ解決できる問題がある
――たとえ心当たりがあっても、会社での立場などを考えると、「法的な紛争は避けたい」とか、「弁護士には相談しづらい」といった人もいるのでは?
「たしかに、ブラック企業に限らず、在職中の労働紛争は大変なものです。声をあげづらいと思っている方が多いのが現状でしょう。ですが、弁護士だからこそ解決できる問題があるし、できるアドバイスもあります。
それに、実際に被害にあわれている方々からの情報や事例が、今後の対応策に生きてくるのです。実際の解決に向けた対応は個々の弁護士が行うことになりますが、弁護団のホームページや電話を窓口として受け付けていきたいと思っています。
まずは、過酷な労働環境でじっと我慢をされている方々に、勇気を持って声をあげていただければと思います。適宜、情報発信もしていく予定です」
今回話を聞いた佐々木亮弁護士をはじめ、多くの弁護士たちが、若者の雇用環境に危機意識を持っている。インターネット上では、日々「ブラック企業」という言葉が飛び交っているが、単に企業を「ディスる言葉」としてだけではなく、雇用環境・問題を改善する糸口として、発展していってほしい。弁護団への問い合わせは代々木総合法律事務所(東京)03-3379-5211。