このご時世、就職や仕事に役立つ資格やスキルを一つでも多く身に付けようと、みな必死だ。英会話スクールに通ったり、簿記などの資格の勉強をしているという話を耳にするし、分厚い参考書を読んでいるサラリーマンも目にする。
一概には言えないが、会社によっては、資格を取れば昇給につながるところもある。なかには、会社から特定の資格を取得するよう命じられ、講習会などに参加したり、教材を揃えて勉強している人もいるだろう。では、このような資格取得にかかる費用は誰が負担するのだろうか。
もちろん、会社と関係のない資格ならば、自己負担はやむを得ないだろう。しかし、業務上どうしても必要な資格だったり、会社の命令によるものだったらどうだろうか。そんな場合、もし会社のルールで「資格の取得費用は自己負担」と決められていたら、社員は自己負担で資格を取るしかないのだろうか。労働問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。
●受験が「業務命令」だったかどうかがポイント
「業務上どうしても必要な資格というだけでは、その資格を取得するための費用を会社が負担すべきだ、とまでいうのは難しいでしょう」
波多野弁護士はこのように指摘する。だが、事情によっては、会社が負担すべき場合もあるという。
「たとえば、会社が労働者に対し、特定の資格を取得するように『業務命令を出した』と評価できる場合は、資格取得に要した費用を会社が負担すべきことになると考えます。
また、さらに進んで、業務命令によって、直接的に資格取得を『指示されていた』のであれば、資格取得のための講習や試験に要した時間も、労働時間となる可能性もあります」
つまり、会社の「業務命令で受験した」なら、費用も会社が負担すべきで、勉強や受験が業務とみなされる可能性も出てくるようだ。実際の裁判で、そう認定された例はあるのだろうか?
「たとえば、国家資格である『技術士』の取得について、『技術士試験の受験が業務命令で行われていた』と認定したうえで、『自宅等で行った本件受験勉強も会社の指揮監督の下での残業というべき』だと判断したケースがあります(大阪地裁平成21年4月20日判決『労働判例』984号35頁)。
なお、これは『技術士』の資格取得のために受験した人が、試験終了直後に脳内出血で倒れ、半身麻痺の障害を負ったという、労災をめぐる裁判で下された判断です」
このような判例からすれば、業務命令で資格取得に励んだ場合は、その費用負担を会社に請求できる可能性が十分にあるといえそうだ。