年収が200万円に満たないような「低所得の若者たち」の住環境を議論するシンポジウム「市民が考える若者の住宅問題」が2月8日、東京都内で開かれた。パネリストが若者たちの実家を「出たくても出られない、檻のない牢獄」と表現するなど、厳しい実態を指摘する意見があいついだ。
主催したのは、ホームレスへの支援を行うNPO法人ビッグイシューと、研究者らでつくる住宅政策提案・検討委員会。住宅問題にくわしい大学教授や、生活保護受給者の自立支援を行うNPO法人の代表らが登壇し、200人以上の参加者とともに議論した。
シンポジウムの冒頭、低収入の若者の「居住実態調査」の結果が報告された。これは、NPO法人や研究者などが昨年8月、首都圏と関西圏に住む年収200万円未満の未婚の若者(20〜39歳で学生を除く)を対象に、インターネットを通じて実施したものだ。1767人が回答した調査結果によると「親と同居している」と答えた人が77.4%にのぼった。
●家賃負担が「収入の3割」を超えると苦しくなる
続いて、調査結果を受けておこなわれたパネルディスカッションでは、生活困窮者支援を行うNPO法人「ほっとプラス」の代表理事をつとめる藤田孝典さんが「親と同居する若者には、家から出たいストレスがあり、親には子どもを家から出したいストレスがあります。お互いのストレスが積み重なって、家庭内暴力や精神疾患発症のきっかけになる場合も少なくありません」と指摘した。
「低所得の若者にとって、実家は『出たくても出られない、檻のない牢獄』です。実態を知れば、この言葉が言い過ぎではないことが分かると思います」
藤田さんはこのように述べ、ほっとプラスに実際に寄せられた相談事例を紹介した。
「印刷製本会社でアルバイトをしている20代前半の男性は、埼玉県内の実家で、60代の両親と高校生の弟と同居しています。アルバイトで得る収入は月15万円ほどです。
両親は月25万円の厚生年金で生活していますが、弟の学費もかかるため、男性を養っていくのは厳しい状態です。両親からは自立してほしいと言われますが、家を出たくても、埼玉県内でワンルームを借りるとなれば、家賃5〜8万円はかかります。
収入のうち家賃の負担率が3割を超えると、生活はかなり苦しくなります。家から出たくても、家賃負担が重くて踏み出せず、実家にとどまっているケースがあります」
●実家に住み続けるストレスが「家庭内暴力」に
藤田さんは、収入面以外の問題として、実家に住み続けるストレスが家庭内暴力を引き起こす事例をあげた。
「30代の男性は、東京都内の賃貸住宅で80代の母親と暮らしています。男性は誰もが知っている有名大学を卒業後、IT企業数社で働いてきました。
しかし長時間労働で過労になり退職し、今は治療をしながら、働いていたときの預貯金300万円と母親の遺族年金8万円(月額)に頼って生活しています。
この男性は、もどかしくて実家から出たい、病気はあるけど再就職したいというストレスが、暴力となって母親に向いてしまう状態です」
●家賃5万円未満の「低家賃住居」が決定的に不足
一方、「居住実態調査」に携わった神戸大学の平山洋介教授は「親と同居することが良いか悪いかという話ではなくて、そうする以外に選択肢がないのが問題です」と語った。
日本の住宅政策は「結婚して家族を持った人が家を買う」という前提のもとに実施されてきたため、低所得者や単身者に対する住宅政策がとても弱いという。平山教授は、特に首都圏などで、家賃5万円未満の低家賃の住居が足りないことを指摘する。
「低所得の世帯が増えているのに、低家賃の住居が決定的に不足しています。また、日本は諸外国に比べて公営住宅が少ないうえに入居条件が厳しい。都営住宅で親と同居していた若者が、親が亡くなって家を承継できず、住み続けることができなくなったケースもあります。
生涯未婚率が上がり、家を買う人が少なくなった今も、政府は住宅ローン減税など『家を買う』ための政策に重点を置いています。時代が大きく変わっているのに、政策がついてこないため、さまざまな問題が起きています」
平山教授はこのように語っていた。