2019年07月05日 09時56分

高齢の義父が「離婚して、恋人と一緒になる」家族は騒然 財産を守る方法は?

高齢の義父が「離婚して、恋人と一緒になる」家族は騒然 財産を守る方法は?
画像はイメージです(kou / PIXTA)

単身赴任していた高齢の義父が、突然、妻に離婚届を突きつけたーー。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

数カ月前から連絡が取れない状況が続いていた義父でしたが、ある日、義母の元に離婚届が届きました。探偵に調査依頼したところ、どうやら不倫をしているようです。さらに、義父は不倫相手に「全ての財産も相続させる」と、遺言を作成したといいます。

女性は「単身赴任の夫を長く支えてきた義母に、ここにきて突然このような仕打ちがあるとは予想もせず、義母が可哀想でなりません」と嘆いています。そこで、義母のために何ができるのだろうかと質問をしています。鈴木克巳弁護士に聞きました。

●高齢者の不倫、家族は困惑

ーー高齢の不倫は、家族も困惑してしまいます。

超高齢化社会、人生100年時代です。悲しいかな、80歳、90歳でも不倫に走る情けない人は後を絶たないのでしょうね。

さて、ご相談者の案件ですが、義父母の夫婦関係や義父と不倫相手の女性との関係が、どのような状態にあったのかが気になるところです。

●どのような夫婦関係だったのか

「義母は単身赴任の夫を長く支えてきた」とありますが、お二人の婚姻関係は円満だったのでしょうか。円満でありながら(少なくとも、義母としては円満であると認識していたにもかかわらず)、義父とは突然数カ月前から連絡が取れない状況になってしまった(ここ数カ月の間で不倫相手と知り合って男女の関係を持つに至った)ということでしょうか。

そうであるとすると、一般市民感覚、社会常識からすれば、そんな身勝手な遺言が許されていいのか? という大きな疑問がわいてきますよね。そこで、そうした遺言は、公序良俗(国家社会の倫理)違反で無効になるのではないかという法的な問題が出てくるのです。

●遺言は「公序良俗違反」で無効になるか?

ーー義父が亡くなった後、義母が「義父の遺言は公序良俗違反で無効」だとする遺言無効確認訴訟を提起したら、その結果はどうなるでしょうか。

最も参考になる判例は、妻子ある男性が半同棲の女性に遺産の3分の1を包括遺贈したという事例での最高裁昭和61年11月20日第一小法廷判決です。

判示では、「妻との婚姻の実体をある程度失った状態で不倫関係が約6年継続していた」「遺贈は不倫関係の維持継続を目的とせず、専ら女性の生活を保全するためにされたものだった」「遺言では相続人である妻子も遺産の各3分の1を取得するものとされていて、遺贈により相続人の生活が脅かされるものとはいえない」との事実認定を行った上で、上記遺言は公序良俗には反せず有効だとの結論を採りました。

ここで結論を左右する主たるポイント(ファクター)は、(1)遺贈の目的が不倫関係の維持にあったのか否か、(2)遺贈の内容は相続人(妻)の生活を脅かすものと評価できるのか否か、という2点です。

ーー相談の事例では、どのように考えられますか。

まず「(1)遺贈の目的が不倫関係の維持にあったのか否か」との点を検討します。

仮に、義父母の関係は既に破綻しており、一方で義父と相手の女性とは長年にわたって共同生活を営んでおり、その実体は「内縁の夫婦」と評価しても良いような状況になっていたとします。

その場合、遺贈の目的は不倫関係の維持ではなく、相手の女性(内縁の妻)の今後の生活保障あるいは今まで支えてくれた感謝の気持ちからのものだとの判断がなされる恐れが強いでしょう。

一方で、義父母は少なくとも数カ月前までは円満な夫婦関係を有していたのに、義父が突然浮気に走り、わずか数カ月の間で遺言を書いたとのことであれば、その遺贈は不倫関係の維持が目的だとの認定がなされる可能性が非常に高くなります。

●「遺贈の内容は相続人(妻)の生活を脅かすものと評価できるのか否か」

ーー「(2)遺贈の内容は相続人(妻)の生活を脅かすものと評価できるのか否か」は、どうでしょうか。

「全財産を不倫相手に遺贈する」との内容ですから、義父が義母に既に多額の生前贈与をしていて、遺産が全て他人に行き渡っても、義母の老後の生活には悪影響を何ら及ぼさないというような特段の事情がない限り、本件遺贈は相続人(妻)の生活を脅かすとの事実認定がなされることでしょう。

相談者の案件については、より詳細な事実関係を検討する必要がありますが、義父の不倫相手が内縁の妻と評価できるような事案ではなさそうですし、遺言の内容もお義母様には全く財産を残さないというお義母様に非常に酷な内容になっていますので、遺言は無効であるとの判断がなされる可能性が強いと考えられます。

●「遺言は無効であると判断される可能性が強い」

ーー相談者もホッとしそうです。今から何かできることはないでしょうか。

遺言は、何時でも書き直すことが可能です。内容を変更した遺言を作れば、前の遺言は無効になります。

義父は、一時の浮気心から冷静な判断能力を失った状況下で、あるいは不倫相手に唆され、不倫相手に全財産を遺贈するとの遺言を書いてしまった可能性もあります。そうであれば、相談者や相談者の夫あるいは義母らで義父を説得して、義父には、前に書いた遺言の内容はすべて撤回するという遺言を書いてもらうという方法も検討されるべきしょう。

さらに、あまり想定したくはないですが、仮に万が一、遺言が有効と判断されてしまうリスクもあります。

義父が遺言を取り消さないまま死亡してしまったときは、義母は、予備的に(一次的には遺言無効の主張をしつつも二次的に)相手の女性に対し、遺留分侵害額請求(民法の改正により、「令和元年7月1日以降に発生した相続」からは、従前の「遺留分減殺請求」ではなくなり、金銭の支払を求める「遺留分侵害額請求(改正民法1046条~)」となります)をしておくべきです。

義母の遺留分は、その法定相続分2分の1(相談者の夫を含む子どもの分を合わせて2分の1となります)の2分の1、つまり、4分の1です。

この遺留分は、「全財産を不倫相手に遺贈する」という遺言があっても保障される最低限の権利です。

義母は、最悪の場合でも、相手の女性に対して、遺留分侵害額請求によって、「概ね」遺産の4分の1(「遺留分侵害額」を算出するに当たっては、生前贈与の有無や額等で変わってくる複雑な計算が必要で、必ず遺産全体の額の4分の1になるとは限らないので「概ね」という理解でいて下さい)に相当するお金は確保することはできます。

したがって、遺留分侵害額請求の行使(義母が義父の死亡と遺言の存在・内容を知り、ご自身の遺留分が害されていることを認識してから1年以内にすることが必要です(改正民法1048条)は決して忘れてはなりません。

ーー他に注意点はないでしょうか

是非とも注意していただきたいのは、決して義父から要求されている離婚には安易に応じてはならないということです。

離婚してしまったら、義父から財産分与と慰謝料は貰えますが、相続人ではなくなるので、義父が死去したときに遺産は全く取得できません(遺留分もありません)。

例えば、それこそ義父の全財産(あるいは大半の財産)を財産分与として渡して貰うことを条件として離婚に応じるという戦い方もありますが、義父は、全財産を不倫相手に遺贈するという遺言を書いているような人ですから、上記のような条件は受け容れないでしょう。

不倫をしたという有責配偶者である義父からの離婚請求はそんなに簡単に認められるものではない、義父の一方的な都合、身勝手な気持ちだけで、長年にわたって築き上げてきた夫婦関係を易々と終了させられるものではないことを義父には悟らせるべきです。

ーー義父も一人の人間ですから、本当に恋に落ちたのなら仕方がないかもしれません。とはいえ、立つ鳥跡を濁さず…で、誠実さを示して欲しいものですね。

仕方がないでは済まされないですよ。義母の今までの苦労、献身に見合った結果が実現されることを祈念しております。相談者も義母を支え、応援してあげて下さい。

取材協力弁護士

鈴木 克巳弁護士
遺言相続案件及び離婚男女問題等の家事紛争や借金問題(債務整理・破産・個人再生・過払金等)を中心に、不動産関連事件、損害賠償事件等広く一般民事事件を扱っている“市民の味方”“消費者の味方”の地域密着型弁護士です。
事務所名:鈴木法律事務所

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