2019年07月04日 11時01分

立ち上がった「ひきこもり」当事者、根深いメディアの偏見に変化促す 緊急シンポ

立ち上がった「ひきこもり」当事者、根深いメディアの偏見に変化促す 緊急シンポ
(左から)林恭子氏、ぼそっと池井多氏、木村直弘氏(2019年6月30日、有馬知子撮影、東京都内)

川崎殺傷事件、農林水産事務次官の長男殺害事件を機に「ひきこもり」に関する報道が相次いだ。これを受けてひきこもり当事者、経験者は6月30日、東京都内で緊急シンポジウムを開いた。

登壇者は報道によって、ひきこもりのマイナスイメージが強まることへの懸念を表明。一方、当事者の発言や行動が、負のイメージ拡散に歯止めを掛けたのではないか、との指摘もあった。ひきこもりの声がメディア、そして社会にもたらした変化とは。(ジャーナリスト・有馬知子)

●20年前からバッシング報道

「ひきこもりとメディア~『容疑者はひきこもりでした』報道を巡って~」と題されたこのシンポジウムは、当事者団体「ひきこもりUX会議」などが主催した。

「ひきこもり」が最初に大きく報じられたのは、2000年の西鉄バスジャック事件と新潟少女監禁事件だ。加害者はひきこもりだったとの報道で、激しい当事者バッシングが起きた。登壇者の1人で精神科医の斎藤環氏は「当時の報道番組では、リベラルとされるコメンテーターですら『ひきこもりはぜいたく病』と発言し、共感を呼んでいた」と振り返る。

当事者を、力づくで「立ち直らせ」ようとする業者も、もてはやされた。UX会議の恩田夏絵代表理事は、小学校2年生から不登校だが、当時ある業者が不登校の子を「目覚めさせる」ため、頭からバケツで水を掛ける場面をテレビで見て、恐怖したという。

「不登校ってこれほど悪い存在なんだ、自分もこうされるんだと思い、さらに縮こまってしまった」と述懐した。

同じくUX会議の林恭子代表理事は「今回の事件で、ひきこもりは得体が知れない、怖いというイメージがさらに強まるのではないかと心配だ」と述べた。「外に出ると、自分も(両事件の当事者と)同じだと思われるのではないか」と怖くなり、これまで以上にひきこもってしまった女性もいるという。

●当事者の声で報道が沈静化 厚労相もメッセージ

今回の事件では、林代表理事ら当事者・経験者が積極的に情報を発信したことで、視聴者・読者のリテラシーが高まり報道がやや沈静化した面もあると、斎藤氏は指摘する。

画像タイトル 精神科医の斎藤環氏(2019年6月30日、有馬知子撮影、東京都内)

「20年前は、当事者がメディアに出ても『表に出ているから偽物だ』と攻撃された。世間が当事者の声に少しずつ、耳を傾けるようになったのは大きな変化だ」(斎藤氏)

事件後、UX会議と「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」は、相次いで「報道によって『ひきこもり=犯罪者予備軍』のようなイメージを生産しないでほしい」などとする声明文を発表した。

さらに両団体は6月26日、根本匠厚生労働大臣と面談。根本厚労相は同日「安易に事件とひきこもりの問題を結び付けることは、厳に慎むべき」「当事者や家族の声も聞きながら施策を進めていく」とのメッセージを発表した。

斎藤氏は「ひきこもり施策は従来、有識者と支援の専門家の意見を参考に作られてきた。当事者の意見を聴いたのは大きな進歩だ」と評価する。

20年前とのもう一つの違いは、当事者自身もメディアを持ったことだ。その一つ「ひきポス」が事件について、当事者数人の手記を掲載したところ、大手メディアから執筆者への取材が相次いだという。

石崎森人編集長は「社会に当事者の声を届けられた。また読者からも『自分は外に出てはいけない危険な存在だと感じていたが、そうではないと思えた』などの声を頂いた」と語った。

画像タイトル 登壇の模様(2019年6月30日、有馬知子撮影、東京都内)

●ステレオタイプ化したがるメディア

しかし、当事者をステレオタイプな「ひきこもり」像に押し込めようとする大手メディアの圧力は、今も根強く残る。

シンポジウム主催者の1人である「ぼそっと池井多」氏は、あるイベントを開いた際、主催者だったにもかかわらず、一参加者であるかのように報道された経験を語った。取材スタッフによると、ひきこもりがイベントを開く、という行為が「視聴者のイメージに合わない」と上司に判断されたという。

「『奥の部屋で膝を抱えて座る』『みじめでみすぼらしい存在』などといった誤ったイメージが、再生産されてしまった」と批判する。

ジャーナリストの堀潤氏は、報道する立場から「メディアは視聴者に理解してもらおうとするあまり『ひきこもり』『被災者』など、乱暴なカテゴライズをしがちだ」と述べた。

画像タイトル 堀潤さん(2019年6月30日、有馬知子撮影、東京都内)

当事者には部屋から出られない人も、外出はできるが社会的なつながりを持てない人もいる。不登校の若者、リストラされた中高年、主婦、セクシュアルマイノリティーなど属性もさまざまだ。

当事者メディア「ひきこもり新聞」の木村直弘編集長は「ひきこもりは同質な集団ではなく千差万別。いろいろな当事者の声を拾い上げることが大切だ」と話した。

●「引き出し業者」に頼らないで 登壇者が警告

シンポジウムでは、事件報道で不安に駆られた家族が、当事者を強引に外へ連れ出す民間業者を頼ってしまうことへの懸念も、相次いで表明された。

木村編集長は「引き出し業者」と呼ばれるこうした団体に「Tシャツと股引き姿で、無理やり連れていかれた」という被害者の事例を紹介。「彼を連れ去った団体は、今も頻繁にテレビに登場している」と憤る。

UX会議の恩田代表理事は「引き出し業者は、『1000人治した』『必ず就労させる』『100%回復させる』『明るい未来』といったインパクトの強い言葉を並べる傾向が強い」と指摘する。

精神科医の斎藤氏も「『子どもの暴力を今改めなければ、家庭は崩壊してしまう』など、子どもの行動を貶めるような言葉で、不安をあおる業者は注意すべき」と話した。

木村編集長は「ひきこもりは『甘え』だという偏見から、無理に連れて行っても構わないと考える人は未だに多い。だが人権を無視した、暴力的な支援の危険性を理解してほしい」と訴えている。

画像タイトル 会場の様子(2019年6月30日、有馬知子撮影、東京都内)

【ひきこもり当事者・親の相談先】

・KHJ全国ひきこもり家族会連合会(全国の支部リスト) https://www.khj-h.com/meeting/families-meeting-list/

・ひきこもり地域支援センター https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/

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